「アニマル・ウェルフェア」を日本に根づかせたい

ピースウィンズ・ジャパン 大西純子 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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大西純子さんのインタビュー第1回はこちら:「広島発『ピースワンコ・ジャパン』プロジェクト
 
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1.「アニマル・ウェルフェア」ってなに?
 
 
――犬について学ぶ必要があるということに非常に共感する一方で、難しいなと思うのは、学校に学びに来る人、犬について学ばなければ、人も犬もお互いに不幸になるという認識がある人は、犬を簡単に手放すようなことはしないと思うんです。都合がわるくなったからと言って簡単に犬を手放すような人は、そもそもそうした認識がすっぽり抜け落ちているような気がするのですが…。
 
大西:残念なことですが、車と同じように、日本にも犬の飼育に免許制が必要なんじゃないかなという気はしますね。
 
――このハードルをクリアしないと飼えませんよ、と法律で縛らなければ、やはり飼い主個人の自主性や良心に委ねるには限界がありますよね。そもそもこうした記事を読んでくださる方は、動物の殺処分という問題を知って、心を痛めている人だと思うんです。だけど、本当に反省してほしい人、ペットを簡単に手放すような人には、なかなか届かない。そのことにフラストレーションを感じています。
 
大西:だからいまは、犬を飼ったことがない人も含め、本当にいろんな層にアプローチしていきたいなと思っていて、小学校や中学校などから声を掛けていただくと、断らずに必ず講演や授業に行くようにしています。未来の飼い主になるかもしれない子どもたちが、幼い頃からこうした意識をもつということは、本当に重要ですし、子どもが「今日学校でこんな話を聞いたよ」と話すことは、親やおじいちゃん、おばあちゃんも聞きますし。
 
――そうした教育を受けて、意識をもった子どもたちが大人になっていけば、未来はきっと変わりますね。
 
大西:こうやって私たちが商業施設の中に譲渡センターをつくるのも、いろんな層の人に知ってほしいからなんです。たとえば、湘南譲渡センターがある湘南T-SITEに来るのは、犬が目的の人ばかりじゃないですよね。本を買いに来る人も、食事をしに来る人もいる。2階には美容室やコスメのお店もあります。そうした人たちが、施設の中をぶらぶらしているときに、「あれ、犬がいる」と気づいてなんとなく立ち寄ってくれるかもしれない。そして「保護犬って何?」と問題の存在に気が付いてくれるということも、たくさんあるのです。
 
――なるほど。そう考えると、人が集まる場所に譲渡センターを置くということは、本当に重要ですね。
 
大西:やっぱりいろんなところでイベントをしたりして、啓発活動は続けていきたいですし、夢之丞のおかげで、多くのメディアが私たちの活動を取り上げてくださいます。なんとなくテレビをつけているだけでも、ネットを見ているだけでも、情報が入ってくる。SNSの普及も大きいです。犬にそんなに興味がない人でも、里親募集や迷い犬の情報が、絶対一度はタイムラインに流れたことがあると思うんです。そういうところから、現状を少しずつでも知ってもらえたらいいなと思っています。
 
――滝川クリステルさんも、一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを立ち上げて、動物の保護やアニマル・ウェルフェアの活動に取り組まれていますね。滝川さんのようにたくさんのファンがいる方の活動から問題の存在を知って、もっと深く知りたい、学びたいと思った人がピースワンコの犬の学校に学びに来る、という流れができるといいですよね。
 
大西:最近ではほかの団体とのつながりができてきて、今年の8月末に、クリステル・ヴィ・アンサンブル一般社団法人Do One Goodピースウィンズ・ジャパンの3団体で連携して、「アニマル・ウェルフェア・サミット」を東京大学で開催します。
 殺処分0に向けて、いろんな団体がいろんな活動をしているのですが、一度それらをまとめたサミットをしたいなと。なぜ東京大学でやるのかというと、「サミット」はもともと頂点という意味なので、サミットをやるなら、やっぱり日本の頂点でやろうと(笑)。ピースウィンズ・ジャパンの理事を務めている東京大学の教授のご協力で、東京大学のホールを会場として使わせていただけることになったのです。
 
――どんな内容のサミットを予定されているんですか?
 
大西:二日間あるのですが、一日目には、自治体のリーダーズ会議を予定しています。併せて、神奈川県、神石高原町、東京都千代田区、大阪府枚方市など、殺処分0を継続できている自治体の取り組み事例を発表するシンポジウムを開いて、ほかの自治体の参考にしてもらおうという狙いです。もちろん、私たちのような保護団体の事例についても発表させていただきます。
 二日目には、私たちがどうしても日本で広めたいと考えている「アニマル・ウェルフェア」について考えるシンポジウムを開きます。アニマル・ウェルフェアという言葉は、なかなか日本語に訳せないんですよね。ドイツ語でもスウェーデン語でも、ウェルフェアという言葉を調べれば、ウィキペディアなどでもきちんと定義されているのに、日本語では出てこない。環境省が定義しているものは一応出てくるんですが、定着しているとは言えない。日本にはアニマル・ウェルフェアの概念がまったく根付いていないので、まずはそこを変えていかなければならないなと。
 
――「動物の福祉」と言われたりもしますけど、動物愛護、動物の権利とごっちゃになっていたりもして、なかなか伝わらないですよね。
 
大西:そうなんですよね。アニマル・ウェルフェアと動物福祉も、またちょっとニュアンスが違います。日本語で「福祉」と言ってしまうと、児童福祉とか高齢者福祉といった言葉のイメージに引っ張られてしまう方が多いのですが、お世話をする、介護をする、ということではないんです。動物たちが、本来の性質や本能を活かして、自然な行動ができる環境をつくる、ということなんです。
 
――一方的にかわいがるという話ではなく、人と動物が共生していく上で、お互いにとってもっとも居心地のいい距離感や関係性を考えましょう、ということだと私は理解しています。
 
大西:そう、でも伝わらないんですよ。そもそも概念がないから。ヨーロッパと日本で動物保護や殺処分への取り組みにこんなに差がついているのは、ヨーロッパにはもともとアニマル・ウェルフェアの概念があったからということがあると思うんです。その意味では、日本はまだスタート地点に立てていない。だから、まずはスタートをきちんと伝えるために、このサミット二日目では、「アニマル・ウェルフェアって何?」ということを学べるイベントを企画したいと思っています。

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