子どもたちのために大人が力を合わせられる社会を

NPO法人 ブリッジフォースマイル 代表理事 林恵子

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――いいですね。児童養護施設の職員の方は、入れ替わりが激しいという話も聞きます。

:激しいと思います。そうした職員の勤務環境をどう改善していくかということもすごく大事だと思いますし、私が活動を始めたときとは違う動きが社会の中に生まれてきているんですよね。

 里親を増やそうという運動が最近盛んなんですが、国際的に見て、日本の児童福祉に関する施策はすごく遅れていると言われているんですね。大きな箱の中で効率よくたくさんの人数を育てるための仕組みなので。それをもっと家庭に近い環境に変えていかなくてはいけないというのが世界の方針であり、日本もそういう方針にシフトしてきている。

 そういうときに、「施設ってこんなにひどいところなんだよ」「だから里親を増やさないといけないんだよ」というメッセージは、たしかにわかりやすいですよね。でも、それはやっぱり、当事者を傷つけるんですよ。施設で暮らす子どもたちもそうだし、子どもたちのために一生懸命がんばっている職員の方もそうです。そうなると、「里親家庭だって、うまくいっていないこんな事例だってある」と、足の引っ張り合いになりかねない場合もあるわけです。私はそれがすごく悲しくて。もちろん、すべてがうまくいっていたわけではないけれど、いままでこんなにがんばってきてくれた人たちが、どうして攻撃されてしまうのか。そんなことをしなくたって、新しい制度は進められるはずなのに。そういったところも、次の課題だと思っています。

――親がいる子どもたちが9割ということも考えると、余計に複雑ですね。

:そうなんです。だから、里親にしても、求められるものがすごく高くなると思うんです。子どもたちとのかかわりの密度が高い分、私たちがボランティア向けに行っている研修よりも、より高度なものが求められるはずです。でも、最初からそんなことができる人なんていないんですよね。

 ボランティアだって活動に参加しながら少しずつ学んでいくわけですし、親だって、子どもを育てながら少しずつ学んでいく。それが、虐待を受けたとか、親と離れざるを得ない事情を抱えて傷ついた子どもたちを、ある日突然里子として受け入れて支援していくことって、すごく難しいと思うんです。

 でも、ハードルが高いからといって「ほら、やっぱり難しくてできないでしょ」となるのも違うと思うし、どうしたらそういった子どもたちを受け入れられる里親を増やせるかを考えていかなければならないんですよね。多くの人が「難しい」「自分には無理」と思っている里親を、「あ、お宅も里親なんですか、うちもなんですよー」くらい当たり前のものにしていくためにはどうしたらいいんだろう、と。

 ボランティアも同じなんです。「私にはそんなことできません」という人は、まだまだ多いのですが、「できますよ!ブリッジフォースマイルでは300人もボランティアをしている仲間がいるんですよ」と私たちも言えるようになってきたし、ずっと続けることはできなくても、ボランティアをやってみて学んだことは、またいつどこで生きるかわからないですよね。

 私たちはボランティアへの心理的なハードルも下げたいと思っているので、ボランティアのやることを明確にして、ひとりに負担が集中してバーンアウトすることがないように細かく分業したり、誰かが辞めたとしてもちゃんと回るような仕組みをつくったりといった工夫をしています。そうして、やったことのない人が「やってもいいかな」と思えるように、参加のハードルを下げるための階段をちゃんとつくっていきたいんです。平日仕事で忙しい人だと、ボランティアのハードルはますます上がると思うので、そういった人たちにとっての入り口になりたいとも思いますね。

――ブリッジフォースマイルで応援しているような自立の仕組みがしっかりできるとか、ボランティアなどで子どもたちにかかわる人が増えて、社会みんなで支え合うという仕組みになっていったら、逆に里親も必要なくなっていくかもしれないですね。

:それはそれでいいんですよね。施設も里親も選択肢のひとつだし、うまく子育てができなくて虐待してしまう親がいても、命の危険がある場合はもちろん離さなければいけないんだけど、そうした親を支えてあげる地域があったりするといいなと思います。

 最近、貧困状況にある子どもたちに食事と居場所を提供する「こども食堂」の取り組みが、全国に広がりつつありますよね。こども食堂のような、子どもたちが自分の親だけじゃなくて地域の大人たちと繋がれるような場所があると、家庭だけでやらなければならないことも減らせるかもしれないし、そうして解決できる問題もあるかもしれないとも思っています。

――林さんは、ブリッジフォースマイルの活動を通してどんな社会をつくりたいですか?

:子どもが自由に選べる社会です。どんな環境で生まれても、自分が本当にやりたいことを、自由に選択できる社会。そんな社会になるためには、その環境を整える大人たちがいるということが前提になります。だから、前段階として、まずは子どもたちのために、大人たちが力を合わせている社会ですね。

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