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NPO法人 e-Education 代表 三輪開人

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――e-Educationは設立から5年目に代表が交代し、三輪さんが二代目代表を務められていますが、代表を交代して、これまででいちばん大変だったことはなんですか?
 
三輪:代表になってからいちばん辛かったことは、初代代表である税所篤快の壁でした。「税所篤快だったら」という比較を何度も何度もしてしまったことが、本当に苦しかった。自分自身に対してもそうですし、周りに対しても「税所篤快だったらこう言うと思うよ」という説明をしている自分に気が付いて、まずいなと思ったんです。
 
 それで、すごく尊敬している先輩に相談に行きました。いまNPO法人カタリバの常任理事と、ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)というNPO法人の二代目代表を務めていらっしゃる岡本拓也さんという方なんですが、岡本さんも私と少し似たような経緯でSVP二代目代表になられたということで、「私はどうしたらいいんでしょうか」と相談したら、「結局三輪くんは三輪くんにしかなれない」という答えが返ってきたんです。
 
 私は、e-Educationのストーリーを語るにしても、講演会をするにしても、いつも「税所篤快は」を主語にしてしまっていました。でも、「三輪開人にとってのe-Education」がたしかにあって、それは、先ほどお話したような高校時代の授業風景とたしかにつながっているものなんだということ、それが自分の力になるんだということがわかったときに、すごく楽になったんです。
 
 昨年受講した「NPOマネジメントスクール」の講師である山元圭太さんも、「自分ごとで語れ」とおっしゃっていたんですが、その人がNGOで働く意味、意義というものを考えるときに、代表の思いに共感したというだけではなくて、自分自身の生き方がどう組織のビジョン・ミッションと結び付いているのか腹に落とすようにすると、先代の壁、私の場合は税所篤快の壁のようなものが、まったく気にならなくなる瞬間が来るんじゃないかなあ、と思っています。私にとっては、自分自身も東進で学んできましたし、高校時代見た光景をなんとかしたいという思いもありましたし、なによりもやっぱりe-Educationをやってきて楽しかったなあと思った瞬間は絶対に自分のものだと思えたので、その瞬間に始めて、e-Educationの代表というか、経営者としての第一歩を切れたような気がしましたね。
 
――それは、代表になってからどのくらい経った頃でしたか?
 
三輪:長かったですね。正式に代表を交代したのは2014年7月だったんですが、その前年11月に私がJICAを退職してからはほぼ私ひとりで意思決定をしていたので、その時点が実質的な代表交代だとすると、そこから1年間くらいでしょうか。たぶん、税所篤快のことが、いちばん嫌いだった1年間でしたね。あんなに大好きだったパートナーなのに、お前なんかいなきゃいいのに、くらい憎らしく思えてしまった。これは精神的にもまずいと思って、病院にも行きました。とくにカリスマと言われる創業者からバトンを引き継ぐ人たちは、たぶんみんなこの壁にぶち当たるんじゃないでしょうか。先代リーダーがいろんなものを背負って、いろんなものを乗り越えてきているほど、次代は苦しい。でも、その壁を乗り越えるためには、彼らの模倣をしていてはたぶんだめで、「自分ってどんな人間なんだっけ?」という問いに立ち返るしかないんだと思います。
 
 私は岡本さんに大きなヒントをいただいたんです。「小学校や中学校で、三輪くんがどんな人だったかというところに、もしかしたらヒントがあるのかもね」って。それでいろいろ振り返ってみたら、中学校では生徒会長をやっていたんですね。でも、どういうわけか副会長がよくスピーチをする生徒会だったので、いちばん前に出ているのは会長の私ではなく、2年生の副会長だった。野球部でも、私は2番というポジションがいちばん好きだったんです。一番バッターがヒットを打ったら、その人を前に進めるためにどうするのか、そこに頭をひねるのが、いちばん好きだった。
 
 そう考えると、自分はみんなの前に出て、「よし、みんなついて来い!」というタイプのリーダーではないんだなと、素直に思うようになりました。仲間の力を引き出すということが、自分の最大の武器なんだと。人前に出て話すのが得意な人もいれば、横から支える人、細かく手を動かす人、人を動かすのが上手な人、いろんな人がいると思うんですけど、その人に合ったやり方で「代表」を背負わないと、潰れてしまうような気がします。私はぎりぎり仲間に助けてもらえましたけど。税所から教えてもらったことはたくさんありましたが、一旦それを取っ払って、自分はどういう経営者なのかということを考えないと、前に進むことができませんでした。
 
 営利企業であれば、売上をあげるためのこれまでのやり方を踏襲するかたちで、ある意味個を殺してリーダーになることは不可能ではないと思うんですが、NPOでそれをやってしまったら、本当に終わりだと思っているんです。個の思いがあって始まった活動から、個の思いが離れてしまった瞬間に、NPOのいちばんの醍醐味である「自分の思いを実現できる」というところから、はるかに離れてしまう。だから、これは私もまだ自信を持って言える段階ではないのですが、経営者自身がいちばん楽しめるような組織風土をつくっていかないといけないんじゃないかなと考えています。代表が苦しみながら経営をしていたら、それを見ている職員や社員の人たちもみんな苦しくなっていってしまうと思うんです。だったら、それが仮に昔と違っても、その団体らしくないと言われても、代表自らがいちばんわくわくできるかたちでやったほうがいいんじゃないかな、と思っています。

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