社会的投資の日本型モデルづくりを目指して

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾雅隆

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――NPO団体の方が認定ファンドレイザーを取得して実務に活かすという流れはとてもわかりやすいと思いますが、受講者の中にはNPO職員ではなく、本業を別に持たれている方もいらっしゃいますよね。彼らはどのようなモチベーションで受講するのでしょうか。
 
鵜尾:准認定ファンドレイザーに関しては、企業で働いている方や税理士さん、弁護士さんなど、いろんな方が受講されていますね。
 受講される方々が皆さんおっしゃるのは、営利企業とは違うソーシャルな事業をどうやったら成長させられるのか、体系的に学ぶ機会や場がほかにないということです。「広報に関してはこう」「事業プランのつくり方はこう」といった部分的なものはあるんですが、どうマネジメントするとうまくいくのかという全体像を勉強するものがないんですよね。
 それで企業のCSR部門の方とか、財団の方が准認定ファンドレイザーの必修研修を受講されるんですが、そうした方々の受講モチベーションやその後の活かし方には、いくつかのパターンがあるようです。
 ひとつは、NPOの理事になったり、プロボノとしてNPO支援に携わる上で、支援のクオリティを上げたい方。これは本業の仕事とNPOと二足のわらじを履くタイプです。
 ふたつめは本業で活かすタイプで、NPOをクライアントに持つ弁護士さんや税理士さん、あるいは企業のCSR部門や財団に勤めていて、NPOを支援する上で、会計処理や資金提供といったサポートを通じて、団体の成長につながるアドバイスをしたいと思っていらっしゃる方。
 3つめは将来ソーシャルセクターでの起業を考えている方ですね。現在の仕事やそれを通じて培ったスキルを、将来起業する、あるいはNPOへ転職する場合に、どのように使えるか、准認定ファンドレイザー研修を受講すれば、NPOのマネジメントの全体像が学べますから、自分が得意な支援領域と全体との関係性もわかる。そう考えて、将来的な起業やNPOへの転職を視野に入れて受講されているタイプです。
 認定ファンドレイザーは、ファンドレイジングを実務でやっている方ばかりですから、また全然違った雰囲気になります。このファンドレイザー認定制度は、アメリカやヨーロッパの制度や仕組みを参考にしつつ、日本に合うようにつくったのですが、アメリカには准認定ファンドレイザーの資格はないんですよ。
 それは、准認定ファンドレイザー研修に該当するような、ファンドレイジングに関する学習の機会が、アメリカにはほかにもたくさんあるからなんです。大学院でNPOマネジメントについて専門的に学べる修士コースもたくさんある。日本には、いまのところひとつもありません。社会イノベーション論とか、社会学としてNPOについて研究できるところはあっても、NPO経営やソーシャルビジネスのマネジメントについて体系的に教えてくれるところは、日本にはなかなかない。その差は大きいと思います。
 
――逆に、なぜアメリカではNPOマネジメントやファンドレイジングというジャンルがそんなに発達しているのですか?
 
鵜尾:アメリカの場合は、行政よりも早くNPOがあった社会だからと言えるかもしれません。たとえば、ハーバード大学は、アメリカに移住した人々がお金を出し合って1600年代に創設された私立大学です。もともと当時のイギリスの抑圧的な政府を嫌い、信仰の自由を求めてアメリカにやって来た人々ですから、行政に権限を持たせることを嫌い、社会的サービスも自分たちの手でやりたいという伝統があるのかもしれないですね。
 そういう意味では、世界のほかの国々と比べても成り立ちからして極端な国ではあるんですが、だからこそ、さまざまな社会的システムで、おもしろいものが早く生まれています。そしてその中には、日本が参考にできるものもかなりあるんです。私たちは「タイムマシン効果」と言っていますが、アメリカやイギリスに行くと、「この話は数年後に日本に来るな」と思うものによく出会うんですよね。実際そうなっていることも多いですし、タイムマシンに乗って少し先の未来に来ているような感じです。

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