投資だから築ける長期的な関係

ARUN 代表 功能聡子

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――もともと「社会的投資」というコンセプトに賛同して参加されているのですから、厳しい意見の投資家の方も、経済的に損をすることを嫌がっているわけではないのですよね? 資金の引き揚げを主張されるのは、うまくいかなそうな事業に投資を続けるよりは、見込のあるほかの社会的事業に回したほうがいいというような考えもあるのでしょうか?
 
功能:それぞれいろいろな意味合いがあると思います。
 甘やかすことは事業のためにも起業家のためにもならないから、厳格な態度で臨むべきだという親心もあると思いますし、自分たちは社会的投資という文化を日本につくるフロンティアであるという自負もあります。いままでにない仕組みづくりに取り組んでいるので、これが正解と言える答えはありません。その中で、本当に社会のためになるのはどんなモデルなのか、投資家がどんな局面でどんな選択をすることが起業家のためにもいいのか、社会的投資の仕組みとしてあるべき姿はどういうものなのか、投資家一人ひとりが、真剣に考えてくださっています。
 金融のバックグラウンドのある方の中でも、銀行と証券とベンチャーキャピタルでは、考え方は当然違います。ご自身のバックグラウンドを踏まえて社会的投資のあるべき姿を考えたときに、厳しい意見が出てくることもあるのだと思っています。
 
――投資家には、どんな方が多いですか? 
 
功能:男性のほうが若干多いですが、年齢も20代から70代までと幅広く、まさに老若男女を問わず参加していただいています。職業もさまざまです。金融関係のお仕事をされていて社会貢献型の金融システムに関心を持たれた方と、国際協力のお仕事をされていて援助と違ったかたちでの関わり方に関心を持たれた方が、初期に参加されたメンバーには多かったのですが、ほかにも事業会社に勤めるビジネスパーソン、研究者、経営者の方もいますし、主婦の方やリタイアされた方もいます。
 
――ということは、投資家の間でも投資経験にかなり差があるということですね。まったく違う視点からいろんな意見が出てくると思いますが、そのときはどのように折り合いをつけられるんですか?
 
功能:無理やり折り合いをつけるようなことはしないようにしていました。
 多様性というか、投資をさまざまな視点から見るということ自体が新しいことだと思うんです。参加されている投資家の中には、その点も楽しんでいる方もいらっしゃいますが、実はこれは社会的投資をつくっていく上でとても大事なことだと考えています。
 
 社会的投資は、これまでの金融の常識に縛られると実行できないんです。経済的リターンを確保するということを考えると、カントリーリスクや為替リスクは大丈夫なのか、そもそも非公開株式に投資してどうするんだ、という話になってしまいますから。だから、ARUNが社会的投資を始めようとしたとき、難しいと言われたのではないかと思います。
 
 投資の常識は、これまでの長い歴史の中で培われてきたものであり、それなりの理由もある大事なものですから、その知識や経験を持ち寄ることは、非常に重要なことです。社会的投資は新しい取り組みではありますが、やみくもにやっているわけではないのです。これまでの経験とまったく新しい視点とを闘わせつつ、社会的投資というものはどうあるべきか、皆で考えながらつくっていく。
 様々な意見がぶつかり合う中で、現地の起業家から学ぶことも多いです。投資した事業がうまくいかなくて、起業家と投資家の板挟みで苦しい思いをしたこともありますが、その起業家は決して逃げなかった。ずっと私たちと向き合い続けていました。そのことに、日本の投資家の方々、とくに金融の常識を持っている方ほど、感銘を受けていました。
 
――海外だから、逃げようと思えば簡単に逃げられますよね。その起業家はなぜ逃げなかったのでしょうか。
 
功能:それはきっと、起業家と投資家との間に信頼関係があったからだと思います。
 ふつうの投資は、どれだけ経済的リターンが上がるかで投資を決めると思いますが、社会的投資の場合、投資を決める根底にあるのは、その事業がもつビジョンへの共感です。どんな社会をつくりたいか。だから、ふつうの投資よりも信頼関係がゆるがないのかもしれません。
 共通の目的に向かっているという一体感がありますから、投資というかたちで託された信頼に応えたいという思いがあるんだと思います。だからこそ、いちばんはじめに信頼関係をしっかりつくっておくことが大事なんですよね。

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