仕事と社会をつないで、忘れていた熱さと志を取り戻す「留職」プログラム

NPO法人クロスフィールズ 代表 小沼大地

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――そもそも、留職事業を考案したきっかけをお伺いできますか?
 
小沼:いまから8年ほど前、大学院進学と同時に青年海外協力隊でシリアに行ったんですが、2年ほど現地で活動してから帰国したら、久しぶりに会った大学時代の友人たちと会話が合わなくなっていたんです。
 
 僕は以前にも増して熱い想いを持って帰ってきたんですが、先に就職した友人たちはすごく冷めていて、「お前、まだそんなこと言っているのか」「そんな熱いことを言っても、世の中では通用しない。お前も早く会社に入って大人になれ」というようなことを言われた。協力隊に行く前に話をしたときは、「俺は商社に行ってビジネスのやり方を変えることで世の中を変えるんだ」「金融の力で世の中をもっと活性化したいんだ」と言っていて、頼もしく思えた同期たちだったんです。
 
 だけど、僕はシリアに行って、友人たちは企業に就職して、そこからたった2年間で、日本企業という組織が、彼らの熱さや青臭さ、志みたいなものを奪ってしまったように僕には見えて、「なんてことしてくれたんだ」と思ったんです。それが僕の強烈な原体験になっていて、かつて持っていたはずの熱さや志をもう一度取り戻す方法を模索するようになりました。
 
――そうして行き着いたのが、「留職」プログラムだったということですね。
 
小沼:具体的に留職を考え出すヒントとなったのは、青年海外協力隊として訪れたシリアでの体験です。
 
 大学を卒業したばかりでシリアに行った僕は、ビジネスのことなんてなにもわかっていなかったのですが、僕の働いていたNPOに、ドイツ人の経営コンサルタントがCEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)として出向してきたんです。そのときに、ビジネスの力を使ってNPOの活動に貢献することが可能なんだということを知ったことがひとつ。
 
 もうひとつ、その過程で、出向してきたドイツ人上司たちがどんどん生き生きしてきたことがあります。シリアの村にやって来て、自分の持っているビジネスのスキルで貢献することでシリアの人々の生活が改善されて、『ありがとう』と言われたりするという経験を通して、彼らの目の輝きが変わっていくのがはっきりとわかりました。
 
 このふたつの経験がオーバーラップして、シリアでドイツ人の経営コンサルタントがしたような経験を、僕の日本の仲間たちも経験すれば、かつての想いを取り戻せるのではないかと考えました。
 
 自分自身の協力隊での経験もあり、社会課題の中で、自分が価値を提供して、そのことによって「ありがとう」と言われる、そんな経験を提供したい。日本の大きな組織の中で、縦にも横にも細分化されてしまって、自分の仕事が社会に生み出している価値を見失いそうになっている人たちにも、小さな組織の中で、その働きが社会に生み出す価値や影響を全身で感じられるような、そんな体験を積んでいただきたいと考えたことが、留職プログラムの始まりです。

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