産後ケアの普及による社会問題の予防と解決を目指して

NPO法人マドレボニータ代表 吉岡マコ

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「なんで母親がひとりで沐浴をしているの?」
 
 「産後ケア文化」をつくるのは、出産する母親だけではない。「受けるケア」が必要な産後1か月の間、母親が体を休めるために寝たきりで過ごさなければならないのであれば、その間の家事や育児を支えるサポーターが必要だ。
 
「私の場合は実家に頼れなかったこともあり、友人に助けてもらいました。家に来てお鍋にいっぱいのっぺい汁をつくってくれたり。産後一か月くらいは、毎日誰かしら来てもらえるようにお願いして。友人が来てくれて本当に助かりましたが、本当はそういうサポート体制のコーディネートも、本人ではなく、パートナーがやるべきだと思います」
 
 マドレボニータから発行されている書籍『産褥記』でも、「産後をみんなで支えよう」というメッセージが提唱されているだけでなく、実際にマドレボニータのスタッフが仲間の産褥ヘルプに利用している、Googleドライブを使ったシフト表も紹介している。
 
「お手伝いに来てくれる人との連絡やシフト調整などのマネジメントは夫がして、産褥婦は夫を通してそれを知るだけで、液晶画面も見なくていいようにしましょう、ということを推奨しています。最近では男性の育休も話題ですが、夫が家事や赤ちゃんの沐浴等のケアを全部肩代わりできるかというと、それも難しいのが現実です。全部背負い込んだ夫のほうがうつになってしまうというケースもありますし」
 
 マドレボニータが推奨するのは、夫は家事育児を妻の代わりにすべて請け負うのではなく、マネジメント役を担い、赤ちゃんの沐浴やごはんの用意などは友人や親戚の手も借りて支え合うかたちだ。ときにはヘルパーの手配をするのもいいだろう。
 
「そういうサポート体制を整えることも、文化として広めていきたいなと思っています。先日も出産したばかりの母親が沐浴中に赤ちゃんを浴槽に沈めようとしたというニュースがありましたが、もっとしっかりしろと母親を責める声が多くて、『なんで出産から1週間しか経っていない母親がひとりで沐浴をしているの?』という疑問の声は出ないですよね。この母親は産後うつの兆候があったと言いますが、産後うつへの理解もまだまだです」
 
 無事に子育てを終えた人からは、「私たちだって苦労して子育てしたのよ。いまの若い人たちは甘えている」と言われてしまうこともある。しかし、それでは解決にならない。
 
「虐待死の40%以上は0歳児で、さらにそのうちの4割から5割が生後1か月未満という厚生労働省による客観的なデータもあります。私たちは、そうしたデータがあったら、『怖いわね』なんてただの世間話のネタにするのではなくて、どうしてそういうことが起こってしまうのか、問題の根本を特定して、それを解決するために必要なものをプログラムとして提供したり、そういう考え方を啓発したりしていかなければならないんです」

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