産後ケアの普及による社会問題の予防と解決を目指して

NPO法人マドレボニータ代表 吉岡マコ

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写真提供:マドレボニータ

シェアリングで見えてくる本当の気持ち
 
 こうして軌道に乗り、拡大を続けてきたマドレボニータの教室事業だが、吉岡さんが伝えたいのは、産後の体のリハビリのノウハウだけではない。
 
「私たちは、産後に起きるさまざまな問題を、産後ケアをすることで解決していきたいんです。たとえば、私は産後のつらい時期を一緒に乗り越えられなかったことが決定的な打撃になってパートナーと別れてしまいましたが、あの時期にきちんとコミュニケーションをとれていたら、違う結果になっていたかもしれない。それも私が『産後』が大事だと考える理由のひとつです」
 
 マドレボニータの教室では、体を動かして筋力を回復するためのエクササイズと同じくらいの時間を、「シェアリング」と呼ばれる参加者同士のコミュニケーションワークに充てている。
 
「『夫婦関係』や『仕事』といったテーマについてみんなで語り合うのですが、自分の気持ちを言葉にして誰かに伝えるというプロセスの中で、自分の本当の気持ちがかたちづくられていくんです。そういう作業をする前は、なんとなくもやもやした思いを抱えているだけで、自分がなにに悩んでいるのかもはっきりとはつかめていない。たとえば、仕事に復帰することに対してもやもやした不安を抱えているんだけど、その正体がなにかわからないから、不安から逃げるために、仕事を辞めてしまおうかな……という思いが頭をよぎったり」
 
 マドレボニータの教室への参加者は、現在では専業主婦よりも育休中の女性が多くなっているが、教室の初日のシェアリングでは、10年以上のキャリアを持つ女性でも、「仕事辞めようかな」と口にすることはよくある。しかし、3回、4回と教室に通って心身の健康と元気を取り戻すと、「よく考えてみたら、仕事を辞めたいんじゃない。育児と両立するのが大変そうだから逃げようとしただけであって、やはり仕事は好き。本当は社会とつながっていたいし、今まで築いてきたキャリアをもっと生かして社会に貢献していきたい。子どもにもそういう姿を見せていきたいし、いま仕事を辞めてしまって、子どもが巣立った後にすることがない、というのがやはり寂しい」という言葉が母親たちから出てくるという。
 
「そういう変化は肌で感じています。みなさんおっしゃるのは、『体力を取り戻して体が元気になってきたから、そういう前向きな思考ができるようになった。1週目に仕事を辞めたいなんて言ったのは気の迷いだった』って」
 
 4回のコース終了時に受講者アンケートをとると、「受講を終えて社会と再びつながる意欲が湧きましたか?」という項目には、「すごく湧いた」59%、「少し湧いた」30%。という回答を得られた。「変わらない」という回答もあったが、「湧かなかった」という回答はなかったという。
 
「シェアリングでほかの参加者の話を聞くということも、いい刺激になるようです。たとえば、『もう3回目の育休なんです』という人に、実際に職場復帰したときの経験を聞いたりすることで、『そうか、こうやってがんばっている人もいるんだ』とか、『だったら私もがんばれそうだな』とか、前向きな選択肢が自分の目の前に開けてくる。教室を通して、そういう変化は毎月感じています」

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