産後の女性を支える社会的インフラを

NPO法人マドレボニータ代表 吉岡マコ

macoshare-2
画像提供:マドレボニータ

「現場」と「研究」の事業を併せ持つ強み
 
 現在、マドレボニータが手掛ける事業は、3つに大別される。
 
「メインの事業は出産後の女性の心と体のヘルスケアを行うための教室事業です。出産後の女性が体を動かすエクササイズとコミュニケーションワークに取り組む120分のプログラムを、13都道府県50か所で提供しています。もちろん、参加はすべて赤ちゃんと一緒です」
 
 2つめは教室事業を支えるインストラクターの養成・認定事業だ。
 
「インストラクターのプロフェッショナルとしての知識やスキルを身につけてもらうための養成コースの実施のほか、そうした知識やスキルのクオリティが保たれているか、適切に更新されているか、といったことを評価する認定機関としての役割も担っています」
 
 現在、認定インストラクターは20名。年内に9期、10期の養成プログラムも始まる。
 
「教室事業の昨年の受益者は6,000人でしたが、インストラクターを養成して教室事業を拡大し、受益者をもっと増やすことで、社会的インパクトを創り出すことを目的にしてやっています」
 
 この2つが、いわば現場の事業だ。赤ちゃんを連れてスタジオに足を運び、母親同士でやり取りをしたり、インストラクターとやり取りをしたりする中で、母親たちの生の声が聞ける場であり、赤ちゃんと母親がどういうふうに振る舞うか、どういう悩みを持っているかといったことを知れる場でもある。
 
「実はそういう場も今までなかったんです。赤ちゃんが集まる場というのはあっても、そこで母親が自分の体のケアをしたり、自分のニーズを言葉にしたりといったことをする場はありませんでした。だからこそ、出産後の母親の体と心のケアにまつわる新しい知見が生まれる現場となっています。今まで隠されていた問題がこういう場で浮彫になってくるので、どんな課題があって、それが社会問題のどんな部分につながっていくのかといったことをきちんとした形にまとめて世の中に伝えていくことを、調査・研究・開発事業として、3つめの事業の柱に据えています」
 
 教室事業を展開する中で見えてくる課題や、「産後」に対する問題意識そのものの希薄さ。そうした現実を肌で感じる機会のない人々にもわかりやすいかたちで説明するために、数値的な根拠も丁寧に集めていく。
 
「定性データ、定量データを両方とって、『産後白書』というかたちで発信したり、リーフレットをつくって配布したり。『産後』が身近でない人にもこの問題を理解してもらえるよう、コンテンツづくりを工夫しています。さらにそうした調査・研究の中から新しいプログラムを開発して教室事業に還元していくんです」
 
 マドレボニータの教室を訪れる母親たちの悩みを聞いていると、子育ての悩みは実はほとんどないのだと言う。
 
「じゃあ、なにに悩んでいるのかと言うと、パートナーとの関係か、職場復帰への不安。ほとんどの母親がその2つで悩んでいるので、夫婦関係の問題を解決するプログラムとして、カップル向け講座をつくったり、母となって働くということについて語り合う『ワーキングマザーサロン』というプログラムをつくったりしました。そうしたプログラム開発も、3つめの事業の一部です」
 
 ワーキングマザーサロンプログラムはすでに教室事業と同じくらいのインパクトを出せるようになっている。プログラム開発から6年を経て、27都道府県の102市町で実施され、5,000人を超える受益者が参加した。
 
「そうした現場からまた新たなニーズが出てくるので、それに対応して新しいプログラムをつくって普及させていく、というように、3つの事業を回しています」

関連記事