娘が同じ葛藤を抱えることがない社会に

NPO法人ArrowArrow 代表理事 堀江由香里

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自分たちがいなくなることができれば、ミッション達成
 
 ArrowArrowは“子育てや介護等の理由に左右されない選択肢のあふれる社会の創造”をミッションに掲げているが、短期目標、中期目標をそれぞれ掲げている。
 
「短期目標は、これまであたためてきたコンサルティングプログラムを、もっとたくさんの人に届けることです。一時にコンサルティングできる会社数を増やせる仕組みをつくるとか、コンサルタントを増やすとか」
 
 また、中期的には、サポートの領域を広げることも視野に入れている。
 
「私自身、不妊治療の末子どもを授かりましたが、不妊治療と仕事の両立は容易ではありません。私はたまたま治療を始めると決めたタイミングでテレビ取材を受けて、治療を公表したこともあり、周りの方にサポートしていただくことができましたが、多くの方は孤独な闘いを強いられている。そうした人たちが多く存在しているという事実を踏まえて、私になにができるかということも考えています」
 
 堀江さん自身の不妊の原因は、社会人になりたての頃、激務でホルモンバランスを崩していたにもかかわらず、それを放置していたことだった。
 
「そんなことも知らずに働くだけ働いてからだを壊してしまうのって、悲しいですよね。晩婚化も続く中で、不妊治療を必要とする人は増えていくと思われるので、そうした人たちへのサポートもできればと考えています。ライフイベントと仕事の両立はすごく大事だと思っているので、サポートの領域を広げたり、伝えるべきメッセージを増やしたりしていきたいですね」
 
 課題先進国と言われている日本。ひとつの課題を解決しても、次々と新しい課題が生まれてくるのだろうが、昨年11月に長女が誕生したことで、現在の活動にかける堀江さんの思いは一層揺るぎないものになった。
 
「私の場合は娘が生まれたので、彼女が私と同じ葛藤を抱える必要のない社会にしなければならないという思いが強くなりました。これからは、拡大フェーズを経て消滅することも視野に入れて、成長していきたい。娘が大きくなる頃には、いまの私の事業は需要がなくなっていて、『お母さん、そんな仕事をしていたのね』と笑ってもらえるようになっていたら、ミッション達成だと思っているんです」
 
 課題解決型のNPOの場合、究極の目標は課題が解決され、自分たちが必要とされなくなって消滅することのはずだが、そこまで明確に言い切れる人は多くない。それだけに、その言葉には、堀江さんの強い志と本気が感じられた。
 
堀江 由香里(ほりえ ゆかり)*大学卒業後、人材業界のベンチャー企業に就職。人事部の立ち上げや新卒採用、内定者研修、新入社員研修のプロジェクトを手掛ける。2008年に病児育児等の事業を行うNPO法人フローレンスに転職。ワークライフバランスコンサルタント事業部長等を経て独立。2010年7月にNPO法人ArrowArrowを設立し、代表理事を務める。2012年1月より日本ワーク・ライフ・バランス研究会事務局長を兼任。
 
【写真:遠藤宏】

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