困難を抱えた人々が自己肯定感をもって生きていける社会に

NPO法人キズキ 理事長 安田祐輔

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一人でも多くの方が自己肯定感をもてる社会に
 
 NPO法人キズキが展開する事業には、3年前に始めたキズキ共育塾のほかにも、大きなものが2つある。
 
「ひとつは高等教育機関の中退予防事業です。専門学校や大学で中退される学生さんは、メンタル面・発達面で課題を抱えた方が多い。そうした方々をケアすることで、中退を予防する事業を行っています」
 
 中退率は大学側の経営にとっても死活問題となるため、学校側も取り組みに熱心だ。学力面・メンタル面で課題を抱えた学生のための特別クラスをキズキが受け持つほか、教員向けの研修も手掛けている。
 
「もうひとつは、新宿区で行政の委託事業として行っている就労支援事業です。『学び直し』を支援するキズキ共育塾では10代前半から20歳前後の生徒が多いんですが、こちらの事業ではもう少し上の年代、主に20代から30代の方の支援を行っています。学び直すというより、もう一度働きたいという意欲はあるのに、働けない方向けの相談窓口を運営しています。やはりこちらも、メンタル面の課題や、発達障害を抱えている方がいらっしゃいます」
 
 発達障害やメンタル面の課題を抱えた方々への学習・就労支援のノウハウは、ほぼ実地経験で培われてきたものだ。
 
「心理学を大学で学んでいたわけではないので、本で独学しながら現場経験を通じて学びました。特に困難なケースでは臨床心理士の資格をもったスタッフと相談しますが、その中での学びも大きかったです。とくに、発達障害は比較的新しい概念ですから、必要としている人がたくさんいるにもかかわらず、それに見合ったサービスがまだ確立されていない。それはこれから自分たちがつくっていけるということでもあるので、やりがいがあるし、おもしろいと思っています」
 
 さらに半年前、ベトナムで障害者雇用の事業も立ち上げた。こちらはまだまだ始めたばかりだが、塾の運営で培われたB to Cビジネスの経験が生きる場面もあり、これから力を入れていきたい事業のひとつだという。キズキ共育塾の立ち上げから4年目を迎え、活躍の幅を広げている安田さんに、今後の展開を伺った。
 
「僕自身としては、精神面・発達面などの困難を抱えている方が生きやすい社会を創りたいと思っています。今後も、中退や不登校の問題にとどまらず、一人でも多くの方が自己肯定感をもって生きていくために必要な事業をやっていきたい。来年くらいを目標に、日本ではうつ病などで働けなくなった方向けの就労支援施設や、発達障害をもつ方々に特化した学習支援の場所もつくりたいと思っています。去年からは海外でも少しずつ事業ができるようになってきているので、30年後くらいには、国内外を問わず世界中で、数百万人・数千万人の困難を抱えた人々を支援する仕組みがつくれたらいいな、と。30年後にそういう状態を作れたら自分の人生に満足できるかなと思って、毎日の活動に取り組んでいます」
 
 
 
安田 祐輔(やすだ ゆうすけ)*1983年神奈川県生まれ。ICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科卒。在学中にイスラエル・パレスチナで平和構築関連のNGO活動に取り組み、一時大学を休学しルーマニアの研究機関に勤務。主に紛争解決に向けたワークショップのコーディネートなどに携わる。大学卒業後、総合商社勤務を経てNPO法人キズキを立ち上げ、現在同理事長を務める。不登校・高校中退経験者を対象とした「キズキ共育塾」を運営するほか、大手専門学校グループと提携した中退予防事業などを行なっている。
 
【写真:永井浩】

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