困難を抱えた人々が自己肯定感をもって生きていける社会に

NPO法人キズキ 理事長 安田祐輔

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挫折の経験を繰り返させない
 
 インターネットなどでキズキの情報にたどり着くのはまず保護者というケースが6割だが、実際に見学に訪れた子どものうち、7割から8割はそのままキズキに入塾する。
 
「キズキに来る生徒の多くは学校に行くのをやめた後、まず大手や有名な塾に行ってみて、そこで挫折した後にキズキにやってきます。すでに2回も3回も挫折を味わった若者に、さらに挫折の経験をつくるわけにはいきません。だから退塾率にはこだわっています。進学先が決まらないまま辞めてしまう生徒は、塾全体の4%くらいですね」
 
 キズキに通い始めたばかりの生徒のほとんどは、勉強する習慣が身についていないことが多い。はじめから自習できる生徒もほとんどいない。
 
「最初は通うだけでいっぱいいっぱいという生徒さんが多い。勉強したいという思いはあっても、メンタルのコンディションにアップダウンがある状態では、通うだけで大変なんです。だから、まずはとにかく家を出てキズキに通うというペースをつくるとか、30分だけ勉強して帰るとか、焦らず一歩一歩進むことが大事です」
 
 講師はアルバイトで20代から50代まで、およそ40名。そのうち約半数が、自身も不登校や中退、もしくはそれに類する挫折経験を抱えている。
 
「挫折の痛みを知っている講師に対しても、大きな挫折を経験したことのない講師に対しても、講師向けの研修を行っています。たとえば、『大学は絶対行ったほうがいい』といった自分の意見の押し付けは絶対にしない、とか、信頼関係ができあがるまでは絶対に叱ってはいけない、とか。学校の先生や親に散々叱られたり小言を言われたりしてきて、新しい塾で会ったばかりの大人に叱られても反発を生むだけなので、それは絶対やめましょう、と」
 
 保護者へのケアも丁寧だ。キズキ共育塾の生徒の6割は、保護者の勧めが通塾のきっかけになっているが、保護者からのプレッシャーを子どもが窮屈に感じているケースも少なくない。
 
「もちろん、しっかりした保護者の方や、親子関係が非常にいい方もいらっしゃいます。だけど、たとえば保護者自身が高卒で苦労したから子どもには大学に行ってほしいとプレッシャーをかけすぎて子どもが嫌になってしまっていたり、逆に子どもの不登校に保護者が疲れてしまって親子関係が悪化していたりということもあるんです。そういう方がいらした場合は、保護者の方とも面談を重ね、家庭は子どもにとって安心できる場所にしてあげてくださいとお願いしています」
 
 保護者の言いたいことはわかる。それが正しい場合も少なくない。
 
「だけど、正しいことを言ったからといって、人間が変わるわけではないですよね。正しいことを言っていたとしても、『親』から言われるとついつい反発してしまう子もいます。また、正しいことを言うには、正しいタイミングがあるんです。そのタイミングというのは我々がよくわかっていますから、そちらは我々に任せて、家は安心できる場所にしてあげてください。どうしても子どもに伝えてほしいことがある場合は、僕たちにメールしてください、うまく伝えるようにしますから、と。一度お願いしてすぐに実行できるものではないんですが、何度も面談を重ねていく中で、だんだん親子関係がよくなっていく例はたくさんあります」
 
 不登校や中退といった挫折経験者の受け皿という点では、フリースクールが存在感を増してきているが、キズキ共育塾はフリースクールとどう違うのだろうか。
 
「キズキ共育塾と一般的なフリースクールの最大の違いは、出口を用意しているかどうかだと考えています。その子らしくのびのび育てばよい、という考え方には賛成ですし、フリースクールによる支援は大事なものですが、僕はちゃんとその次の進路をつくってあげたいんです。実は中学校で不登校の子で、高校進学を機にやり直したいと考えている子は多いんです。たとえばいじめが原因で不登校になった子ならば、知っている人がいない高校に進学して、新しい環境で新しい人生としてやり直すことができればいい。キズキではそういう気持ちを応援したいと考えています」

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