集めたいのは「お金」じゃなくて「仲間」

NPOマネジメントラボ 代表 山元圭太

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山元さんのインタビュー第1回はこちら:「NPOの経営マネジメントのプロになりたい
 
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かものはしを選んだ3つの理由
 
 経営コンサルティングファームで実務経験を積んだ山元さんが次のキャリアとして選んだのは、国際NGO「かものはしプロジェクト」だった。
 
「かものはしへの入職を決めたのには、3つ理由があります。ひとつは、ミッションに共感したこと」
 
 かものはしプロジェクトは、カンボジア・インドを中心に、子どもが売られない世界をつくるため、警察を支援したり、大人たちへは就労支援、子どもたちには教育支援などの活動を行っているNGOだ。
 
「スモーキー・マウンテンでの一件もあり、当時の僕のこだわりとしては、『すべての子どもたちが自分の人生に希望を持って生きていける社会にするために貢献したい』という思いがありました。かものはしプロジェクトが掲げる児童買春という問題に対して特別関心が高かったというよりも、かものはしが目的としている、児童買春をなくすことで『より多くの子どもや若者達が未来への希望を持って生きられる世界を実現させること』というミッションを見て、目指すところは一緒だな、と」
 
 その世界を実現するための壁のひとつとして、児童買春という問題があることは確実だった。ならばと、そこから始めてみることにした。
 
「2つめに、僕は早くNPOの経営の根幹を経験したいと考えていました。大きなNGOに入っても、マネジメントや経営の中核を担えるようになるのは、10年、20年先になるだろうし、そもそもそのチャンスをもらえるかどうかわからない。その点、かものはしは僕と同じ年のメンバー3人が共同代表というかたちをとっていました。僕がその中できちんとバリューを発揮できれば、早いタイミングで根幹を担える可能性があるかなと思ったんです」
 
 3つめの理由は、山元さんがかねてから感じていた疑問にも、結婚したばかりという山元さんの事情にも、関係するものだった。
 
「もうひとつは、ちゃんと生活していけるということ。僕が我慢するのはいいけど、結婚したばかりの妻にまで我慢させるのは申し訳ないですから。かものはしは給与が当時から日本のNPOの中でそんなに悪い金額ではなかったし、今後もそれを伸ばしていきたいということを明確に掲げていたので、それならなんとかなるかな、と考えました」
 
 山元さんが学生時代に見聞きしたように、NPO、NGOは、給与が非常に低いことが多い。NPOに対し、「ボランティアなんだから報酬を求めるべきではない」という考え方をしている人も少なくない。そんな中で、かものはしプロジェクトは、「私たちは使命を達成するためのプロフェッショナルとして、継続的に活動できるよう、人材への投資を惜しみません。活動している人が、ちゃんと生活できるように給与を支払い、福利厚生等を整えていきます(かものはしプロジェクトホームページより)」と明言している。
 
「共感できるミッション、早い段階で経営の根幹を担える可能性、ちゃんと生活していける給与。この3つの条件がそろっている団体というのが、当時かものはし以外に思いつかなかったんです。実際、なかなかないと思います」
 
 こうして山元さんは5年間勤めた経営コンサルティングファームに別れを告げ、かものはしプロジェクトに入った。

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ビジネスの常識が通用しないNPOの現場
 
 ファンドレイジングマネージャー候補として採用された山元さんだが、実はかものはしプロジェクトの求人ページで「ファンドレイジング」ということばをはじめて知ったのだという。
 
「やたらいかつい名前だなあ、なんて思って調べてみたら、資金調達のこと、と出て来て。かものはしに応募するとき、僕は開発の勉強もしていないし、英語もできないので、貢献できることがあるのだろうかという不安がありましたが、ファンドレイジングであれば、営利企業での仕事に近い感覚で役に立てるんじゃないかと思いました」
 
 当時、特にファンドレイジングをやりたいと考えていたわけではなかったが、その分野であれば貢献できそうだと考えた背景には、そこできちんと成果を出せれば、自由に動かしてもらえるのではないかという狙いもあった。しかし、ファンドレイジングの仕事はそう甘くはなかった。
 
「実は、最初は全然おもしろくなかったんです(笑)。せっかくNPOに入ったのに、企業にいたときとやってることは変わらないじゃん、って」
 
 山元さんが担当していたのは寄付や会費。いくら集めるかの目標金額があり、進捗管理され、達成できているかどうか、達成できていなければどうするのか、問い詰められた。
 
「そのときはまだ、ファンドレイジング・ファンドレイザーっていうのを、単なる営業とか資金調達、もっと言えば集金係くらいにしか捉えられていなかったんです。だから、またお金か、と思ったりしていました」
 
 一方で、ビジネスの場では当たり前だと思っていた常識や前提が通用せず、戸惑うこともあった。
 
「たとえば、ビジネスの場では納期が遅れそうなら早めに相談したりするのが当たり前だと思うんですけど、事前相談もなく遅れるとか。そういう、“整っていない”と思うところがいくつもありました」
 
 中でも山元さんを困惑させたのは、ボランティアやインターン生の存在だった。
 
「かものはしに限らずNPOっていうのは、ボランティアさんとか、インターン生のような方たちが組織の中にいて、活動を支えてくださっています。だけど、企業の中にはふつう、そうした無償人材っていないんですよね。そうなると、どう接していいのかわからないんですよ」
 
 前職の経営コンサルティングファームでは部下を持ち、チームを率いた経験も持つ山元さんだったが、そこでは指揮命令系統がはっきりしていた。その関係性を担保していたのは、究極的には給与ということになる。
 
「ところが、NPOには関わり方が多様な人たちがいて、その人たちとの間にはなんの指揮命令系統もないんです。給与をもらっていないということになると、どこまで仕事を頼んでいいのかもわからないし、お金や役職以外の力の論理でコミュニケーションをとらなければ、そうした人々に動いてもらうことも活かすこともできない。最初は困惑しました」
 
 寄付集めも、やはりビジネスの常識が通用せず、苦戦した。ビジネスの世界では、お金というのは、商品やサービスを提供した対価として受け取る報酬だ。より多くの報酬を得るためには、より優れた商品やサービスを生み出すことを考えればいいということになる。だが、NPOに対する寄付は報酬とは違う。
 
「ビジネスしかしてこなかった身ですから、寄付してくれる人の気持ちがわかりませんでした。その人自身に対して、少なくとも目に見えるかたちではなにも提供していないのに、数百万寄付してくれたりするわけです。その寄付額をさらに上げようと思っても、なにをしたらこの人たちが喜んで寄付額を上げてくれるのか、まったくわからない。寄付する側のロジックもわからないし、マーケティングしようにもやり方がわからない」
 
 ビジネスとNPO、それぞれの現場の違いにカルチャーショックを受け、困惑することが続く中で、次第にミスも出始めた。
 
「当初自分が思っていた以上に、全然成果を上げられず、貢献できているという感覚が持てなくて、1年目は何回も辞めたいなと思いました。でもほかのメンバーがいろいろサポートしてくれたり、フォローしてくれたりする中で、徐々に自分の強み、組織内で自分が貢献できるポイントが見えて来たので、思い切って配置換えを申し出ました」

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かものはしプロジェクトの仲間たちと(写真提供:山元圭太氏)

俺らが稼ぐから、君たちは問題を解決しろ
 
 ファンドレイザーとして、はじめ山元さんは会員事業担当だったが、法人担当に変更してもらった。また、マネジメントをするポジションに置かれたことで、だんだん成功体験が積めるようになっていった。
 
「前職の経験から、対社長さんのコミュニケーションが得意だったので、こうしたら寄付が獲得できるっていうことがわかってきて、そこから自分の強みも再確認できたし、組織内の既存のメンバーとの信頼関係もできて、1年目の終わり頃から、少しずつ状況は好転していきました」
 
 ファンドレイジングがおもしろくなってきたのは、この頃からだ。成果が上げられるようになった達成感ももちろんあるが、それ以上に大きいのは、素晴らしい寄付者との出会いだった。
 
「いまでも印象に残っている寄付者の方が2名いらっしゃるんです。ひとりは60代の男性で、講演会をきっかけに寄付をしてくださるようになりました」
 
 地方で中小企業を経営している男性で、その寄付額は数百万円。後日、お礼と寄付金の使途についての報告のため男性を尋ねると、お礼を言いに行った山元さんが、逆にお礼を言われたのだという。
 
「その男性は、子どもの問題に関心を持ち、心を痛めてきたものの、それまではどこに寄付したらいいのか、自分になにができるのかわからず、なにもできなかったそうなんです。だけど、僕の話を聞いて、かものはしプロジェクトに託せば、この痛みは消えるんじゃないか、報われるんじゃないかと思ったから、寄付というかたちで託したんだと。そして『自分の寄付をちゃんと使ってくれたようで、心の痛みが晴れた。そういう機会をくれてありがとう』と言ってくださいました」
 
 山元さんは嬉しそうに続ける。男性からのエールはいまも山元さんを励まし続けている。
 
「さらに、『自分は商売しかやってこなかったし、お金を稼ぐことしかできない。君たちは、お金を稼ぐことは難しいかもしれないけれど、現地で子どもたちを救うことはできる。だから、これは社会的な役割分担だと思っている。俺らが稼ぐから、君たちは問題を解決しろ』とも言ってくださいました。いまでも継続して支援してくださっていて、会うたびに元気をもらえる方です」
 
 もうひとりは80代の女性で、こちらも地方に住んでいる方だった。夫を亡くし、その遺産の一部を寄付したいということで、甥の方の紹介でかものはしプロジェクトが寄付先に選ばれた。
 
「お礼と報告に伺ったのですが、報告が終わると、座っていた床に手をついて、おでこが床につくほど頭を下げて、『ほんとうにありがとうね』って、言ってくださったんです」
 
 「意味のあるかたちで、こんなふうにお金を使ってくれて、ほんとうにありがとう」――そのことばに、山元さんは胸がいっぱいになったと言う。
 
「お礼を言うのはこちらのほうなのに、すごく丁寧にお礼を言ってくださる。そのくらい、なにかを感じてくださっていたり、受け取ってくださっているんだなって。寄付してくれた人もハッピーになって、僕らもハッピーになって、その結果として現地の子どもたちは救われていく。すごくいい仕事なんだなって、嬉しくなりました」
 
 そうした実感を得て、山元さんはファンドレイジング、ファンドレイザーという仕事が好きになっていった。同時に自身がかつてそうであったように、ファンドレイジングという仕事が、表面的にしか捉えられていないことを残念に感じるようになった。
 
「ファンドレイザーというのは、本質的には単なるお金集めをする人たちではないんです。お金集めのプロではなくて、一緒にその問題を解決したい、ミッションを達成したいという仲間集めのプロが、プロのファンドレイザーだと捉えています。集めたいのは、お金じゃなくて仲間なんです」
 
 以来、かものはしプロジェクトでは、「フレンドレイジング」ということばが使われている。

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NPOの実務と支援の経験を重ねて
 
 ファンドレイジングマネージャーとしてかものはしプロジェクトのファンドレイジング全体を統括するようになった山元さんの充実感に比例するように、年間およそ4,000万円だった寄付額は1億円にまで増えた。そんな中、東日本大震災が起きる。
 
「僕がかものはしに入って3年目のことでした。検討の結果、僕らはミッションに忠実に活動を続けることを大切に考え、団体としては震災支援はしないということになりましたが、職員一人ひとりの個人としての思いは尊重したいので、震災支援に行く人にはボランティア休暇を認めることになりました」
 
 そこで山元さんが参加したのが、「つなプロ」。被災者のニーズをくみ取り、課題を解決するために専門性を持ったNPO等の支援者と「つなぐ」ために、複数のNPOが連携して立ち上げたプロジェクトだ。
 
「ボランティアの方を集めて説明会を開き、準備を整えて現地に送るという活動の東京事務局を担当させてもらいました。それをETIC.さんと一緒にやらせてもらったのがご縁で、震災支援が一段落したときに、社会起業塾イニシアティブというプログラムのコーディネーターをやらないかと声を掛けていただいたんです」
 
 社会起業塾イニシアティブとは、「起業家型リーダーの輩出を通じて、社会のイノベーションに貢献する」ことをミッションに掲げるNPO法人ETIC.が、花王、NEC、横浜市と共催で行っている、社会起業家育成プログラムだ。
 
「そこから徐々に、NPO支援というものに携わるようになったんですが、最初の1年は、かものはしに入ったときと同じように、まったく役に立てないことを実感するばかりでした。NPOの支援は未経験だったので当然と言えば当然なんですが、なにをどうしてあげたらいちばんワークするのかとか、どの部分がいちばんの課題なのかといった目利き力が、まったくなにもなかったんです」
 
 それでも試行錯誤しながら1年、2年と取り組むうちに、少しずつポイントがつかめてきた。自身が所属しているかものはしプロジェクトに置き換えて振り返ることで、「たしかにこの部分がポイントだった」と、自身の見解を裏付けるだけの経験も、山元さんにはあった。
 
「自分が実際に実務をやってきた経験と社会起業塾イニシアティブのコーディネーターとしての支援の経験とを重ねながら失敗と成功を繰り返す中で、ポイントが洗練されてくるというか、自分の中で整理されてきたんです」
 
 そうして得た知見をもとに、山元さんがNPOに対する支援を開始したのは、いまからおよそ3年前のことだった。(第三回「『よさそうなこと』ではなく『本当に変わること』を」へ続く)
 
【写真:永井浩】
 
 
 
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山元 圭太(やまもと けいた)*NPOマネジメントラボ代表。日本ファンドレイジング協会認定ファンドレイザー。元NPO法人かものはしプロジェクト日本事業統括ディレクター。 1982年滋賀県生まれ 同志社大学商学部卒。卒業後、経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして、5年間勤務の後、2009年4月にかものはしプロジェクトに入職。日本部門の事業全般(ファンドレイジング・広報・経営管理)の統括を担当。「社会起業塾イニシアティブ(NEC社会起業塾) コーディネーター(2011〜2013年)」「内閣府復興支援型地域社会雇用創造事業 みちのく起業 コーディネーター(2012年)」として、日本各地のソーシャルベンチャーやNPOの支援も行なう。
 現在は、NPOマネジメントラボ代表として、「本当に社会を変えようとするチェンジメーカーの『想い』を『カタチ』にするお手伝い」をするために、キャパシティ・ビルディング支援や講演/セミナー、コーディネートを行っている。専門分野は、ファンドレイジング、ボランティアマネジメント、組織基盤強化、NPO経営戦略立案など。

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