ソーシャルなお金を生み出す仕組み

京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰

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収入では測れない豊かな暮らし
 
 プラスソーシャルの活動を始めるにあたり、域内総生産の10%近いお金がエネルギーコストとして地域から流出していることに深尾さんは気がついた。
 
「逆に言うと、固定価格買取制度を越えて、再生可能エネルギーをきちんと地域化できれば、その10%は流出しなくていいんですよね。自分たちの地域でつくったものを、自分たちの地域で循環させていく。都市部では無理でも、再生可能エネルギー源がたくさんある農山村なら、たとえばエネルギーフリーのような暮らし方が実現できるかもしれない」
 
 そうすると、その町の生活コストは下がり、その分豊かな生活を送ることができるようになる。収入そのものは高くなくとも、都会とは違う価値観で、豊かな暮らしを実現することが可能だ。
 
「そうした生き方とか価値観の転換も含めて、いま考えているのは、お金の流れとか地域の経済圏みたいなものを意識した地域づくりです。『地域が地域であり続ける』ために、その域内の経済をどう回していくか。いまのように補助金でいろんなものを支えましょうというやり方は限界に来ているので、地域の中からお金を出さずに、域内の暮らしをいかに豊かにするかとか、そのまちのライフスタイルに合わせた仕組みづくりをやっていかないといけないと思っています」
 
 ところが、信用金庫の預貸率は、この15年間で20%以上下がっている。つまり、地域にお金が流れていないということだ。そんな地域が補助金型の行政から脱するために、社会的投資という領域をどう広げていくか。キーワードは「投資」と「ローカル」だ。
 
「信用金庫の預貸率で下がった20%は、国債等に流れています。それをどう再び地域にシフトさせていくか。たとえば、プラスソーシャルの第2号案件への出資をお願いするとき、『国債より儲からないけれど、地域のためになります』というと、かなり反応がよかったんです。100万、200万とか金融機関に預けていてもほとんど利息なんてつかない。だったらまちづくりに投資して地域が活性化するほうが、地域の商売にとってもプラスになるという回路はみなさんお持ちなんですよね」
 
 そうした投資のインセンティブは、直接的な儲けというよりも、「社会的な利益」ということになる。たとえば、貧困層の子どもたちを支援することで貧困の悪循環を断ち切り、彼らが将来にわたって生活保護を受給することなく暮らしていけるようになれば、社会にとって大きな変化だ。
 
「要は、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の地域版をつくりたいんですよ。だけど、クロスセクターベネフィットのように、成果が見えにくいものだってある。そうしたものも含めて、『社会的な収益』というものをどう測るか、その評価の軸を考えていくことが、今後必要になってくると思います」
 
 たとえば、地域の古い体育館をコミュニティスペースとして生まれ変わらせ、そこでいろんなメニューを展開すると、その運営自体では利益が出なくとも、市民が元気と健康を維持・回復し、結果として医療費が下がるということが考えらえる。
 
「そうやって、縦の構造だけでは成果が見えづらいものでも、地域に対する投資という関係性で見ると、一定の評価ができるはずなんですよね。そういうところまでもっていければ、まだまだ地域にはポテンシャルがあるし、若い世代がもっといろんなチャレンジをできるようになる。真の地方創生は、若い世代が地域で希望を持って生きていけるようになることだと思うんです」
 
 将来消滅すると言われている地域が日本全国にいくつもあるが、こうした流れが大きくなり、暮らしやすいまちづくりが住民自身の手によって行われていくようになれば、地域はきっと元気を取り戻すに違いない。

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