ソーシャルなお金を生み出す仕組み

京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰

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地域で生み出したお金を地域に還元する再エネ事業
 
 寄付を集めるばかりではない。地域で循環するお金を自ら生み出そうと、深尾さんが取り組んでいるのが、再生可能エネルギーとまちづくりを一体化させた事業モデルだ。
 
「いま、かなりの数のソーラー発電設備が田舎にできていますが、そのほとんどが東京資本です。地域でつくられた電気が売られ、そのお金がぜんぶ東京に集まっている。要は、ここでも地域から収奪が行われているわけです」
 
 このままでは、大きな資本をもっている人たちが田舎の土地を安く買いたたき、地域からの収奪という構造が進むことになる。その状況に違和感を覚えた深尾さんは、売電収益を地域社会で循環させ、地域が抱える社会課題の解決に向けるモデルが必要ではないかと考えた。
 
「それで地域貢献型メガソーラーを考案しました。和歌山の地域づくりにかかわっていたということもあって、和歌山県の印南町に、7億円をかけて1850kWのメガソーラー発電所をつくりました。2013年の11月から稼働を始めています」
 
 印南町は、人口9,000人弱のまちで、漁民住宅をつくる予定で埋め立てたものの、東日本大震災以降、居住が想定されなくなり、塩漬けになっている土地を抱えていた。
 
「町長さんが地域貢献型メガソーラーの構想に賛同してくださり、その土地を貸していただけることになりました。もう一か所、和歌山県の畜産試験場の跡地も入札で払い下げていただけて、印南町の海と山の両方にソーラーをつくらせていただきました」
 
 この事業を運営しているのは、深尾さんが代表取締役社長を務める株式会社「プラスソーシャル」。非営利型の株式会社を標榜し、定款で株主への利益配当を禁じている。売電で得た利益は、公益財団等、公益性のある団体へ寄付することが定款に明記されている。
 
「『こんなのは株式会社とは言えない』と公証人さんにもずいぶん言われましたが、なんとか認めていただきました。ただ、専門家によると、株主が配当を要求する裁判を起こしたら負けるだろうということです」
 
 だが、株主は深尾さんひとりだけ。そういうことであれば、この構造が覆されるリスクはない。
 
「このプロジェクトでは、20年間でおよそ5億円の収益を見込んでいます。つまり、年間でだいたい2,500万円です。そこから税金や諸経費をひいた金額を行政が取り組めない領域の社会課題の活動資金として、地域に戻していこうと考えています。このモデルが、社会的投資市場を形成するための、ひとつの先駆けになっていければいいな、と」
 
 気になるのは、資本金300万円の株式会社プラスソーシャルが、どうやって7億円もの事業費を工面したのかだ。
 
「最初は銀行に貸してくださいって言いに行ったんですが、当然だめでした。それで、信託という仕組みを活用し、社会的投資といったものを日本で根付かせるきっかけにしたいと思って、いろいろ考えました。そこで、まずは自分の勤め先でもある龍谷大学に話を持ちかけてみたんです」
 
 「大学としての社会的責任を果たすことにもなる」という深尾さんの訴えを受けて、慎重な議論を重ね、龍谷大学は3億5,000万円の出資を決定する。
 
「審議には半年くらいかかりましたが、結論にはしびれました。この大学の構成員でほんとうに良かったと誇りに思いました。もともと、龍谷大学は資産運用にはかなり慎重です。厳格な資産運用規定をもっていて、リスクの高いところにはぜったいに投資しない。今回の投資に関しては、私がつくったばかりの会社ですから、格付けもなにもありません。だけど、社会的投資ができるように学内の運用規定を変えてまで、協力してくれたんです。これはすごいことだと思います」
 
 3億5,000万円を信託として20年間預かり、国債よりも低いレートで設定された利子を、毎年大学に支払うというかたちだ。
 
「残りの3億5,000万円は、信託会社と私の会社で信託事業体を組成し、金融機関からお借りしました。そうしてできた7億円の資金をもとに発電し、売電で出た利潤は、NPOの活動資金として地域社会に戻していくというモデルで動かしています」
 
 龍谷大学の決断が、社会的投資市場を形成するひとつの先駆けになってくれたらいいと、深尾さんは願っている。現在、地域金融機関から融資を受けて、600kW規模の第2号案件も建設中だ。
 
「最初は難色を示した地域金融機関も、モデルができたことで『いいですね』って言ってくれて。この2号案件の収益は、『祇園祭ごみゼロ大作戦』を支えるファンドの形成にあてます」 
 
 「祇園祭りごみゼロ大作戦」とは、京都で7月に行われる宵山行事期間中の屋台の食器で使用される食器を、使い捨て食器から、洗浄して繰り返し使用できるリユース食器に切り替える取り組みだ。2号案件の収益は、このリユース食器の購入などの初期投資にあてられる。
 
「こういう、3.11以降のエネルギーの問題と地域社会を一体として考えながら、地域でお金を生み出して、それを地域の中で回していく、地域社会の課題を解決する資金にあててていくっていうスキームを、どんどんつくりたいと思っています」

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