市民活動を支える地域のお金の流れをつくりたい

京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰

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社会課題の変遷イメージ(コピーライト:深尾昌峰)

すべては「ほっとけない」から始まる
 
 深尾さんは、社会課題とその解決策の動きを、右の図のように説明する。
 
「私たちの社会の課題の解決は、気づいたり、『ほっとけない』と思った人が行動を起こすことから始まります。それが、図の左下のゾーンです」
 
 深尾さんはDV(ドメスティック・バイオレンス=家庭内暴力)を例に挙げた。DVという課題自体は日本でも60年代後半から認識され始めていたが、当時は単なる夫婦喧嘩という位置づけでしかなかった。
 
「夫婦喧嘩だから、社会も警察も動けませんでした。そこから30年を経て、ドメスティック・バイオレンスという言葉と概念が認知され、社会に広がっていきました。そして2001年にDV防止法ができました。結果、このDVという課題は図の右上のゾーンに来ました。課題として社会的な認知を得て、政策的に取り扱われ、税金を投入して対応できる時代に入ったんですね。私は、すべての課題がこうした道筋をたどるんだろうと思っています」
 
 いまでは一般的な訪問入浴車も、活動開始当初は社会に受け入れられなかった。いまとなっては考えられないことだが、当時は公序良俗に反すると批判されたのだ。
 
「車に風呂を積んで街中をうろうろするなんて破廉恥だ、と言われて、はじめはナンバープレートの交付さえ拒否されたんです。これは、ひとえに概念がなかったから。福祉や介護の現場で働く人たちのニーズが、社会全般の認知を得ていなかったんですね」
 
 そんな訪問入浴車も、いまではごく当たり前に見かけ、補助金の対象にもなり、介護保険事業のメニューのひとつにもなっている。
 
「ところが、ここで先ほどの『市民性の回収』という課題にぶつかります。社会課題解決のために制度が走って行くと、どうしても図の右上のゾーンに集中してしまうんですね。本来は、左下のゾーンにある課題に自由闊達に取り組めるのが、NPOの市民性の良さだと、私は思っています」
 
 なにか問題が起きると、市民は「行政はなにをやっているんだ」と攻撃しがちだが、そもそも行政には取り組めない領域の課題があると深尾さんは言う。税金という仕組み上、図の左下のゾーンの課題に、いまの行政が取り組むことは難しい。
 
「そこの課題に取り組めるのは、課題に気づいて『ほっとけない』と思った市民自身なんです。私はそこが非常に大事だと思う。だから、私はこの左下のゾーンの活動を支えるお金の流れをいかにつくるかということを考えたいと思いました。市民活動を支えるのは市民社会だというテーマを掲げて、そのための資金プラットフォームをつくろうということで、京都地域創造基金をつくることにしたんです」

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