発達障害を理由に可能性を狭めたくない

株式会社Kaien 代表取締役 鈴木慶太

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いつ、どうして発達障害に気づくのか
 
 最近では3歳児検診でのスクリーニングが普及し、早い段階でケアを受けられることが増えてきたが、発達障害に気がつく時期やきっかけは、人によってさまざまだ。
 
「たとえば言語の発達が全体的に低かったりすると、3、4歳のときに明らかに発語が遅いとか、言葉の組み立てが悪いということで気がつきます。あるいは相手の気持ちを読むことが苦手な場合、幼稚園や小学校で集団生活を送るようになった段階で難しさが出てきたり、中学や高校に進んで、周りがどんどん大人になっていく中で、その変化に追いつけなくなったり。いわゆるガールズトークができない、みたいなことですね」
 
 子どもの頃は問題がなくても、大人になってから生きづらさに気がつく人も決して少なくない。たとえば、大学生になって、それまでの与えられる時間割から自分で選んで組み立てる時間割になると、対応できずに不登校になってしまう。あるいは大学では与えられた課題に「書いて」応えることで成果を出してこられたが、就職活動で面接という動きのあるコミュニケーションになると、目が合わない、言葉がうまく出ない、表情がない、といった違和感で落とされる。もちろん、社会に出て相当な年月が経ってから気がつく場合もある。
 
「一部上場のグローバル企業に就職して、35歳でマネージャーになるまでは問題なかったけれど、管理職になって部下のスケジュールやタスクの管理を求められるようになると途端にできなくなったことで気がついたという人もいました。発達障害は、内容も程度も、気づくきっかけやタイミングも、人によってほんとうにさまざまなんです。だから、自閉症スペクトラムといわれる」
 
 自閉症スペクトラムとは、カナータイプと言われる重度の自閉症からアスペルガー症候群までの広汎性発達障害を、自閉症状や知的障害の程度によって、明確な境界線のないグラデーション状の障害としてとらえる概念のことだ。
 
「だから、僕も発達障害の傾向が0とは言えないと思っています。僕だけじゃない、みんなスペクトラムのどこかに存在していて、どこかにカットオフポイントがある。そして、そのポイントは、そのときその人が属している社会が決めるんです」
 
 発達障害の特徴を持ちつつ、適応できる人もいる。たとえば、知的能力が高ければ、苦手な部分をカバーしやすい。
 
「多くの人が勘でとらえているものを、ターミネーターのように情報として分析する感じなんです。こういう表情をするときは、人はこうだ、とか。こういうタイプの動きをする人は安全だ、とか。自分の引き出しに情報をいっぱい詰め込んで対応することで、空気を読んでいるようにふるまうことができる。だけど、ふつうは空気を読んだり、人の気持ちを感じ取ったりするのにまったくエネルギーを使いませんよね。それを意識的にやるので、疲れるというか、大変みたいです」
 
 診察を受ければ発達障害と診断されるレベルでも、適職やその人に合った会社を選び、適応している人も多い。そうした人は、Kaienの支援を必要としていない。Kaienにやってくるのは、残念ながら仕事や生活に適応できなくなった人々だ。
 
(第二回「アプローチ次第で能力は伸ばせる」へ続く)
 
鈴木 慶太(すずき けいた)*2000年、東京大学経済学部卒。NHKに入社し、アナウンサーとして報道・制作を担当。NHK退職後、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学しMBAを取得。長男の診断を機に発達障害の能力を活かしたビジネスモデルを模索し、帰国後Kaienを 創業、現在に至る。
 
【写真:shu tokonami】

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