チャレンジで自分と地域の未来を変える

株式会社ワクワーク・イングリッシュ 山田貴子

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写真提供:ワクワーク・イングリッシュ

子どもたちの夢の数だけ事業をつくりたい
 
 現在、ワクワークが展開する事業として、オンライン英会話以外に、コミュニティカフェ、名古屋のNPO「ふくりび」と共同で行っているヘアサロンやネイルサロン、マッサージの複合型サロンの運営がある。さらに、セブ市の中央に位置するスラム街、ロレガの中にワクワーク・ラーニングセンターという学びの場、働く場の建設が計画されており、8月末着工予定だ。
 
「子どもたちの夢の数だけ事業をつくりたいんです。日本から訪れる企業のインターンや学生とフィリピン人で一緒にプロジェクトを立ち上げて、新しい事業をどんどんつくっていこうと思っています。そのために、ラーニングジャーニーというプログラムを行っています」
 
 ラーニングジャーニーとは、単なる視察旅行やボランティアツアーとは異なり、日本、フィリピンの参加者一人ひとりが、対話を通じて深く繋がり、共に未来を創っていくことを目標にした一連のプログラムだ。その第一弾の成果として2013年の3月にオープンしたワクママカフェは、今年で1周年を迎えた。
 
「ロレガに住んでいたお父さんお母さん8人と一緒につくったカフェです。ワクワーク・イングリッシュのオフィスが入っているビルの1階にあります。カフェをつくります、働きたい人を募ります、という単なる求人のかたちではなくて、まずはラーニングジャーニーのプログラムに参加したい人を集めました」
 
 ワクワークとパートナーシップを結んでいる、ガワカリンガというフィリピンの大きなNGOが、公共墓地であるロレガの一部を供養、整地して、宿泊施設を建てた。ロレガの人々が500時間以上一緒に汗を流して働けばそこに無償で住めるというルールをつくり、いまでは72家庭がこの建物に住んでいる。
 
「ワクママカフェを立ち上げたメンバーは、その72家庭に声をかけて手を挙げた人たちから選抜しました。二人とも仕事がなくて子どものミルクも買えなくて困窮している夫婦とか、旦那さんが刑務所に入っているけれど、下の子がこれから大学に入る予定の57歳のお母さんとか、携帯ショップを開きたいお母さんとか。ラーニングジャーニーにチャレンジして、自分の人生を変えたいという思いを持っていたお父さん、お母さんたちです」
 
 株式会社ドアーズと協働し、日本からは社会人有志がこのプログラムに参加した。1週間のプログラムの中で、まずは互いのライフストーリーを丁寧にシェアする。そうして互いを知り、フィリピン人も日本人も同じ人間であるという根本に立ち返った上で、この1週間で自分はどうなりたいのか、このチームはどうなってほしいのか、このコミュニティはどうなってほしいのか、匿名で紙に書いてアイデアを出し合った。
 
「そうすると、だいたいみんな同じようなビジョンが出てくるんです。じゃあここからどういう未来をつくろうか、ということで、具体的にどんな事業がいいのかみんなで話し合います。そしてこのときは、だったらカフェがいいんじゃないの、っていうことになったんです」
 
 治安が悪いからと地元の人も近づきたがらないロレガというエリアが人々とつながる場にしたい。若者たちが新しいチャレンジを生み出す場として、コミュニティハブの役割を果たしたい。そうした願いをかなえるために、具体的な事業としてカフェが選ばれたのだった。
 
「この『カフェをつくろう』と決めるところまでがひとつめのジャーニーです。その2か月後が次のジャーニーで、今度は日本から学生が12人参加しました。現地の8人と日本の学生12人で、雑誌を切り抜いてフューチャーコラージュしたりしながら、なにもなかった1階の路面店をどんなカフェにしたいか、アイデアを出し合ったんです」
 
 カフェにふだん行かない現地のメンバーはなかなかカフェのイメージがわかず、雑誌を見ても遠い世界のように感じてとまどう場面もあった。描くイメージの違いで途中もめることもあった。だが、山田さんたちは話し合いをまったくコントロールしない。
 
「みんなで意見を出し合った結果いまのかたちに落ち着いて、最終日、日本の学生たちの帰りの飛行機の時間ぎりぎりまで、みんなでタイルを床に貼っていました。途中、学生たちがふざけながら壁塗りをやっていたらお父さんに怒られて全員追い出されたりもしていましたが(笑)、そんなやり取りの中で、現地のお父さんお母さんも自尊心を取り戻せる」
 
 こうしてオープンしたカフェには同じビルに70社ほど入っているさまざまな会社の社員や、近所の私立高校に子どもを通わせている比較的裕福な保護者が訪れる。3階に入っているワクワーク・イングリッシュの講師たちも、社員食堂のようなかたちで利用する。ロレガの人々と、これまで接点のなかったコミュニティの人々がつながる場としても、着実に機能しているといっていいだろう。

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