自然エネルギーを復興の原動力に

福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会 半谷栄寿

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南相馬ソーラー・アグリパークでの体験学習の様子

 「変える人」No.3は、福島県南相馬市で体験学習プログラムを展開する、一般社団法人福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会 代表理事の半谷(はんがい)栄寿さんをご紹介します。
 
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「この実験道具、知っている人?」
 
 半谷さんの問いかけをさえぎるように、「はい!」という元気な声が飛び交い、子どもたちの手が一斉に挙がる。この日やってきたのは、南相馬市立石神第二小学校の3年生、総勢38名。普段もこんなに元気なのだろうかと思うくらい、彼らと半谷さんのやり取りは活発で、その目は輝いて見える。
 
 ここは「南相馬ソーラー・アグリパーク」。自然エネルギーの体験学習が行われているのは、津波にあらわれ、原発事故の影響を受けた場所だ。半谷さんはこの地で、福島の新しい未来を築いていこうとしている。
 
身近なエネルギーへの気づきと実感
 
 昨年の3月11日に施設が完成したばかりの南相馬ソーラー・アグリパーク(以下、「パーク」)。太陽光発電所と植物工場のふたつの設備を活用した体験学習は、身近な自然エネルギーを実感してもらうところから始まる。
 
「実感もないまま、太陽の光を電気エネルギーに変えてみようと言っても、子どもたちも楽しくないと思うんです。だから、まずはペットボトルを使った実験で、空気や水がもっているエネルギーを感じてもらう。その上で、今度は太陽の光を電気に変えてみよう、という流れにしています」
 
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 室内での約30分の実験を終えると、実際の太陽光発電所に入り、パネルの点検や発電研究の体験へと移る。パネルに傷がないか、ケーブルが切れてはいないか、巡視する子どもたちのまなざしは真剣そのものだ。
 
「これは非常に地味な仕事なんです。でも、自分の任された仕事に対する責任感や、達成感を実感しているからこそ、子どもたちは真剣にチェックしてくれるんですね」
 
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 角度と方位を変えられる太陽光パネルを用いた発電研究では、どの角度と方位が太陽光のエネルギーを最大に生かせるか、まず自分たちで仮説を立ててみる。その後、実際にパネルを動かし、実際の発電量を確認する。
 
「こういう体験を通して、“仮説と実行”という流れを、子どもたちに楽しく身につけてもらいたいと思っています。また、電気を“つくる”体験にとどまらず、電気を上手に“つかう”体験も取り入れるようにしています」
 
 太陽光で発電した電気を電気自動車のバッテリーに蓄え、その電気をホットプレートに使う。同じく太陽光で発電する電気の一部を使っている植物工場のしくみを学び、そこでとれた野菜でサンドイッチをつくり、食べる。体験プログラムはまさに直感的だ。
 
「この体験学習を、南相馬市では総合的な学習の一環として位置づけてもらっています。市内には約3,300名の小中学生がいますが、これまで27回開いた体験学習に700名の子どもたちが参加してくれました。最近は中学校の体験学習が増えてきています」

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太陽光パネルの向きを変えて発電量の変化を学ぶ子どもたち

人のために役に立ちたい
 
 体験学習といっても、単なる「気づき」を提供することだけが半谷さんのめざすところではない。
 
「南相馬ソーラー・アグリパークは、太陽光発電の福島県における先駆けでもあると同時に、植物工場という新しい農業による原発の風評被害払拭のモデル事業でもあります。さらに、それらを生かして子どもたちの成長を支援し、復興を担う地元人材を育成するのが、この事業の最終的な目的なんです」
 
 先駆け・モデル事業としての価値のひとつが、夏休みや冬休みに開くスクールにあらわれている。昨年は、南相馬市との共催で30回のサマースクールを開き、参加者は1か月間で700人超。地元の方はもちろん、全国からもたくさんの人々が来訪したという。
 
「いろんな問題を抱えながらも南相馬は元気に前進しているということを、全国の方々に交流する中で知っていただきたい。そして、お互いの顔の見える人と人との信頼関係で、農作物などの風評被害を払拭していきたいんです」
 
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 小中学生向けの体験学習プログラムは「グリーン・アカデミー」と名づけられた。大切にしているのは、子どもたちの「自ら考えて行動する力」をいかに育むか、ということだ。
 
「南相馬の子どもたちは本当に大変な経験をしましたが、いただいた支援への感謝の気持ちと同時に、支援してくれた人のようになりたいという気持ちが芽生えているのを強く感じます。『人のために役立ちたい』という思いは、彼らの成長にとってすごいモチベーションになるはずです」
 
 パークでの体験学習が、子どもたちの思いと、考える力・行動する力を育む橋渡しとなることを、半谷さんは期待している。
 
「答えを教える学習ではなくて、体験学習で自ら考え、仮説を立てて実行してみる。考えて行動する力を身につければ、子どもたちの人生はより力強く、前向きなものになるはずですし、その中から福島の復興を支える人材が出てくるに違いないと信じています」
 
 半谷さんは、子どもたちの経験が実になるように、未来への希望を体験学習プログラムに一つひとつ落とし込み、練り込んでいる。

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南相馬市への支援の様子【写真提供:福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会】

「もの」の支援から「しくみ」の支援へ
 
 この事業モデルの原点は、半谷さんが被災した故郷への支援活動を行っていたときにさかのぼる。
 
「大震災が起きたとき、私は東京にいましたが、自分にできることはなにか考えました。あの当時は物流が滞っていましたから、まずは“もの”の支援が大切だと考えて、南相馬市にトラックで物資を運びました」
 
 南相馬市の出身の半谷さん。最初に支援物資を持って行ったときには、変わり果てた故郷の光景に目を疑ったという。
 
「国道をトラックで走っていたら、そこから水平線が見えたんです。そんなことは、本当はあり得ない。海沿いには松林があり、道路沿いには建物もあるはずなのに。私には、目の前の光景がまったく信じられませんでした」
 
 運んでいった支援物資は、休まず営業していた地元の和菓子屋の店先に置かせてもらい、支援が必要な人に渡してもらうようにした。公平性より迅速性を優先しての支援。これを可能にしたのは、それまで培ってきた経験と信頼だ。
 
「オフィス町内会という環境NPOで古紙の共同回収をやってきた関係で、たくさんの古紙回収会社とパートナーシップを組んでいます。そうした回収会社が古紙回収用のトラックを快く貸してくださって、活動に参加している企業から支援物資もいただいて。おかげで、3月19日から5月14日までに計6回、物資を運ぶことができました」
 
 そんな中、和菓子屋のおかみさんから、「子どもたちのためになにかできないか」という思いを託される。ちょうどその頃、自身も支援のあり方を切り替えようと考えていた。
 
「5月に入るとスーパーも営業を再開し始めたので、“もの”の支援は終わろうとしていました。次は“しくみ”の支援が大切だ、と。では、どんなしくみがいいだろうと考えていたところにおかみさんのひと言があって、はたと気づかされました」
 
 半谷さんの脳裏に、これまでの人生が走馬燈のように駆け巡った。
 
「誰しも、子どものとき恩師に影響を受けたことが、人生に大きなものをもたらしていますよね。自分のビジネスマンとしての人生を振り返っても、体験が人を育てると本当に思うんです。体験こそ、人を成長させる。だから、子どもたちの成長のために、なんらかの体験ができる場としくみをつくって運営しようと決めました」
 
 お世話になったおかみさんのひと言からの着想。それは、それまで半谷さんが長年積み重ねてきた活動や思いが、故郷の復興と重なった瞬間だった。

キッザニアの森
「キッザニアの森」【写真提供:福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会】

ビジネスマンと社会活動家の二足のわらじ
 
 半谷さんは大学卒業後、東京でビジネスマンとして働く傍ら、社会事業に取り組んできた。1991年に環境NPO「オフィス町内会」を設立。1,000ほどの事業所の古紙を、共同で回収するしくみをつくりあげた。
 
「オフィス街で、企業同士の横の連携がほとんどないのに、共同して古紙の回収をするしくみは画期的だったと言われています。加えて、各会員企業の社員の皆さんに古紙の分別を習慣付ける先駆けの役割を果たしたことも、非常に大きな経験になっています」
 
 オフィス町内会はこの活動によって、1993年にリサイクル推進功労者等表彰で内閣総理大臣賞を受賞した。さらに2006年には、森林の間伐を促進する活動、「森の町内会」を立ち上げる。
 
「植樹、育樹も大切ですが、いまの日本の人口林は間伐が必要なんです。かつては日本で使われる木材の90%以上が国内産で、林業も元気でした。それが、いまは自給率25%。森林の手入れをしても木材が売れないので放置するようになり、森林が荒れてしまった。そういう意味で、日本の森林の問題は、まさに経済と環境のはざまにあるんです」
 
 この森の町内会の活動の一環として、2010年から職業体験型テーマパークのキッザニアに「キッザニアの森」というパビリオンを出展している。ほんものの木の枝をのこぎりで枝打ちする、人気のアクティビティのひとつだ。
 
「子どもたちの成長のための体験の仕組みは、キッザニアの理念と非常に近いものなんです。そこで、パビリオンの出展でご縁をいただいていたキッザニアの住谷社長の協力を仰いで、キッザニアのノウハウをおおいに活用させてもらいました」
 
 キッザニアとの連携により、南相馬での自然エネルギーの体験学習事業の構想を立ち上げたのは2011年8月。これまでの活動を振り返れば、広く環境というキーワードで結ばれているのかと、はた目には思える。そこには、南相馬市出身ということに加えて、東京電力の執行役員であったという半谷さん自身の経歴が、大きな影響をもたらしていた。
 
第2回「何としてでも、復興を成し遂げる」に続く)
 
 
 
半谷 栄寿(はんがい えいじゅ)*1953年福島県小高町(現・南相馬市)生まれ。1978年に東京電力に入社。同社にて数々の新規事業を手掛ける傍ら、1991年に環境NPOオフィス町内会を設立し、古紙リサイクルや森林再生に取り組む。2010年に同社執行役員を退任。2011年9月に福島復興ソーラー株式会社を設立。さらに2012年4月には一般社団法人福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会を立ち上げ、現在に至る。
 
【取材・構成:熊谷哲】
【写真:shu tokonami】
 

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