真の課題は世代間の負担と給付の格差

島澤諭(中部圏社会経済研究所)×小黒一正(法政大学教授)×亀井善太郎(PHP総研主席研究員)

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5、安易に財源を求めれば、社会保障制度ばかりではなく、政治への信頼も崩れていく
 
亀井 厚生年金と国民年金の保険料率は、本人も事業主負担も、これまで毎年上げられてきました。2017年で予定していた引き上げを終えるのですが、そこに安易に上乗せしようという発想はないのでしょうか。もっと言えば、これまで毎年引き上げをしてきても、源泉徴収、天引きで負担が見えにくく、投票行動に影響しないようだから、現役世代と事業主に負担させればよいと政治家が考えたということはないのでしょうか。
 
小黒 確かにそのとおりで、保険料の天引きというのは、非常に巧妙に設計されています。他方、消費税であれば、何かを買う時に、子供も含めてあらゆる世代が痛税感を感じるわけです。それは欧州の付加価値税と違っていて、内税方式と外税方式とありますが、日本はどれぐらい税金払っているかと明示することになっています。欧州ではインボイス等の制度があるため、それが見えないわけで、そのあたりも全く政治的なフリクションが異なります。だから、政治家、とくに政権を担っている与党の政治家は、消費税を上げるというと国民全員を敵にする、そういう形になるわけです。
 でも、それがゆえに、現役世代や若い世代の負担が上がってしまうのは、彼らをより厳しい状態に置いてしまうことを忘れてはなりません。
 
島澤 その通りです。安易に保険料を使っています。消費税引き上げと言えばものすごい反対が起きるのですが、年金保険料や医療は毎年上がっても、誰も何も言いません。
 政治家として、やはり国民の反対が少ないところからお金を取る、要は取りやすいところから取るというのが鉄則ですから、そういう意識が働いているんでしょう。
 ただ、それはやはり安易に過ぎまして、先ほども申し上げましたが、保険の受益と負担のリンクが、さらに弱くなっていくと、やがては保険料の引き上げ自体も困難になっていくと思います。
 取りやすいところから取るんだということを、しかも若い政治家が安易に考える、提案することは、ひいては、財政ばかりでなく、社会保障制度を容易に崩壊させてしまうことは是非とも気付いてほしいところです。結局、政治への信頼に直結するんですけどね。
 
保険料によってガバナンスが利かなくなるおそれも
 
小黒 社会保険の場合、特別会計になり、一般会計と比べて国民や議会のチェックが利きにくくなるという問題もあります。厚労省でも旧労働省では雇用保険の特別会計があります。かつてもやりましたが、雇用情勢が改善すると雇用保険のお金が余るので、いろいろな制度を創設するんです。雇用保険のお金で社会人の大学院進学や英会話学校の補助を配布するという制度がまさにそうです。本来、税でやるべきものを保険料でやってしまうわけで。
 
島澤 特別会計の改革を進めて減らしていこうという時に、新たに別会計をつくるようなもですから、あらゆる面で今回の「こども保険」というのは、これまでの政治の方針に逆行しているのだと思います。それが果たして、今後、日本を多分担っていくことになる政治家、若い政治家が、そんな態度というか、心持ちでいいのかなと、非常に心配になります。

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