人間味の深いプラットホームにできるかが鍵に

横尾俊彦(多久市長)×藤井宏一郎(マカイラ株式会社代表取締役)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

 空き家を観光客に貸す「民泊」や、必要な時だけ自動車を使う「カーシェアリング」など、シェアリングエコノミーが日本でも広がりを見せている。資産や資源を「所有」するのではなく、必要に応じて「利用」するという考え方に基づくもので、スマートフォンやソーシャルメディアの普及がタイムリーな仲介を可能にした。
 シェアリングエコノミーは社会を大きく変えるインパクトを持つと考えられるが、少子高齢化と財政難に直面する地方自治体も注目している。公共サービスの一部にシェアリングエコノミーを活用することで、持続可能性を高めることができると期待されているのである。
 昨年11月、佐賀県多久市、長崎県島原市、浜松市、千葉市、新潟県湯沢市の5市が「シェアリングシティ宣言」を行った。多久市はクラウドソーシングによる仕事の仲介、島原市は島原城のまるごとシェア、浜松市は体験型旅行や公共施設の有効活用、千葉市は国際会議や展示会の誘致、湯沢市は子育てシェアリングの取り組みをはじめた。
 2040年には全国の市区町村の半分に消滅の恐れがあるとする将来人口推計が突きつけられる中、シェアリングシティは地方消滅を救うのか。多久市長の横尾俊彦氏、マカイラ株式会社代表取締役の藤井宏一郎氏、PHP総研主席研究員の荒田英知が語り合った。

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1.シェアリングエコノミーとコミュニティ再生
 
荒田 地方自治体が取り組む課題には、これまでいろんな新しいネタが出ては消えてきたという歴史があると思います。それらと比べて、シェアリングシティというのは、これはちょっと違うぞという感じを私は持ったんです。横尾市長も何かピンと来るものがあったのではないでしょうか。
 
横尾 市長になってから5期目になりますが、就任当初から自治体も経営感覚やマネジメントが大事だという視点でいろいろ取り組んできました。
 10数年前にNPMって流行ったでしょう。「ニュー・パブリック・マネジメント」です。行政を変革するエンジンとして私は期待したのですが、なかなか定着し切れなかった。新しい次元が見えなかったと思います。
しかし、今回シェアリングシティには新しい可能性があるなと感じています。
 そこで、政府が進めている地方創生の加速化交付金を活用して、シェアリングシティを進める拠点として、コンテナハウスを活用して多久駅北にローカルシェアリングセンターを開設しました。昨年5月にそこでセミナーを始め、続けています。講師はシェアリングエコノミー協会の主要な団体やNPOにお願いしていますが、定年退職した方やIターンした若者が集まって、予想以上に盛況です。仲間でワイワイ教え合うような感じで進んでいます。
 今という時代が以前と大きく違うのは、ほとんどの人がスマホを使ったり、ICTデバイスを使っていることです。社会参加にしろ、防災や避難にしろ、欠かせなくなっていることを首長として強く感じます。防災マップを配っても、いざという時に持って出ないけど、スマホは持って出ますからね。
 
荒田 シェアリングエコノミーと自治体の公共サービスには親和性があることが直感的にわかります。
藤井さんは非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、シェアリングエコノミーが世の中をどう変えていくというふうな展望をお持ちでしょうか。特に地域に対してどういう影響やインパクトがあるか、どんなふうにお考えですか。
 
藤井 私はシェアリングエコノミーというのは、いくつかの捉え方があるというふうに思っているんです。
 1つは、端的に言うと、経済状況に課題を抱える自治体において、遊休資産の活用による経済的な機会を創出するということです。
 例えばクラウドワークスさんがやられているクラウドソーシングです。今までだったら都会の下請事業者に仕事がアウトソースされていたのが、今、ネットワーク化されたクラウドベースド経済によって、地方に仕事が分配できます。あるいは、スペースマーケットさんのシェアスペースのような、今まで経済価値がマネタイズできなかったものがマネタイズされていくというところがあると思います。
 これらは、東京の事業者の経済活動を地方に分配するとか、地方の遊休資産をマネタイズするという、シェアリングエコノミーの初歩的なところ、つまり経済的便益を中心とした捉え方です。
 これとは別に、地方で従来存在したような人間関係ベースのコミュニティを新しい経済活動の中でうまく再生する、つまり昔ながらの共助社会というか、互助型社会というのとはまた違う、ITによるシェアサービスを通じた新しいつながりを創造する取り組みがいろんなところで見られているわけです。
 新しい形でのコーポラティブ経済というか、協働型経済というのをもう一回復活させようという、物を借り合ったり、道具を借り合ったり、そこにコミュニティスペースがあるというような。そこにテクノロジーを導入して、それを自治体が支援するというような動きがあるわけですね。このような、コミュニティ再生としてのシェアリングエコノミーというのがもう1つのトレンドで、まち自体の運営のあり方が変わっていくレベルがあると思います。
 
横尾 多久でのセミナーは、たまたま1回目は、クラウドワークスさんに来てもらいましたが、参加者は市外からも県外からも来ています。3回目ぐらいから、実際に文章を書くとかのちょっとお試しワークをやってみて、実はもうビジネス参加で稼いでいるのですよ。まあ、数千円とか1万円くらいですが、教えに来た人たちからすると、想定より多くて驚いています。

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2.多久市をオープンイノベーションのラボに
 
藤井 失礼な言い方ですが、私、多久市って最初どこだか知らなかったんです(笑)。
 でも、武雄の近くなんだと。前の市長がいろんなことをやられて、「武雄って何か新しいらしいぞ」って、いろんな人が視察などで行ったわけじゃないですか。私もそのうちの一人でしたが、武雄に思わず行っちゃったんですね。オープンデータ政策で有名な鯖江市も同じで、一時期、オープンデータ関係者の聖地みたいになって相当ブランディングに寄与しました。
 多久市が横尾市長のリーダーシップによって、新しいオープンイノベーション型の経済、例えばクラウドソーシングに限らず、アートフェスだとか、コワーキングスペースだとかのその他の参加型経済活動も取り込んで、新しい試みをやっているおもしろい地域だというふうに多久市をブランディングできれば、「ここのまち何かおもしろい」って、それ自体で人が来るんだと思います。
 
横尾 そこは本当に感じるところです。今回、シェアリングエコノミー協会にもお願いしているのは、いくつかのことを実験的にやっているのではなくて、やれる可能性があるのはトータルで全部やるというぐらいのつもりでいます。
 アートについては、今おもしろい動きがあります。有志の若い人たちがウォールアートを始めたのです。今、16枚描いています。お店とか建物の壁に。目標は100枚といっています。いろいろなアーティストが参加しています。やっているアーティストには定住プログラムで多久に来た人もいるのです。たまたま来て、そういう新たな創作を始めています。
 オープンデータなんかも、役所のデータをどんどん公開して、守秘義務の部分は仕方ないですが、使えるものは活用できるようにしていく。そして、民間が使ったらもっとマネジメントよくなるじゃないと感じます。ある意味で実験場のような、ラボのような感じでやっていけたらいいなと思います。
 
藤井 そうですね。参加型アートとかオープンデータはシェアリングエコノミーの定義からは外れるけれども、隣にいる“いとこ”みたいなものじゃないですか。いわゆるオープンイノベーションという文脈では全部つながっているから、そういうのを全部多久市に持ってきたらいいですよ。
 例えば、シェアリングエコノミー×オープンデータで何ができるかというと、ライドシェアをやっている会社というのは、そのまちの交通利用データをたくさん持っているわけじゃないですか。どこで人が乗るかとか、何曜日にこの道が混むだとかっていうのを。そこを市が企業に協力して便宜を図る代わりに市の側にデータをシェアしてもらって、市のほうも、市が持っている公共交通などのデータを出せばいい。
 行政が持っているインフラデータと、シェアリングエコノミー企業が持っている利用状況データをシェアしてもらって、場合によってコードフォージャパンみたいなシビックハッカーたちの協力も得て、公共サービスの改善を図るとか。アメリカでは議論が始まりつつありますが、これができている自治体って日本ではまだないと思うんです。
 
横尾 まだないチャレンジといえば、個人の健康記録について、共済、国保、健保といろんな保険がありますね。これらのデータを1つに集めて、電子化する実験を4月から立ち上げます。また、生まれた時の乳幼児健診、小学校、中学校の学校保健に関する健診、成人以降の会社か団体、国保かの健診、これらは縦に切られてつながってないのです。
 それを全部つないで個人に活用できるようにあげましょうと。自分が過去にさかのぼって既往症がわかるとか。そうすると、個人としてもいいですね。将来の先進医療を受ける時も基礎データがあったほうが、ドクターが判断しやすい。ところがデータがないのですよ、日本では。これも春から実験をはじめます。今はちょうど過渡期なので、そういうトライアルをどんどんしようとしています。
 
藤井 オープンデータやデータシェアリングは、シェアリングエコノミーそのものとは違うのかもしれないけれども、全部つなげて、全部多久市に持ってきたら、視察もいっぱい来るだろうし、先進的な取り組みはメディアにも出るでしょう。

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3.公助から共助への流れをつくる
 
荒田 先ほど藤井さんが共助、互助とおっしゃいましたが。シェアリングシティ宣言の中にも「公助から共助へ」という言葉があります。これらのキーワードが、シェアリングシティとは何ぞやという時のかなり重要な概念なのかなと思います。
 童門冬二さんという作家の代表作に『小説・上杉鷹山』があります。米沢藩の財政立て直しをやった藩主上杉鷹山の改革の指針が「自助、互助、公助」だったというふうに書かれています。共助と互助は極めて近い意味合いだと思うんです。
 
藤井 そういう趣旨のことを実践したんでしょうね。
 
荒田 昨今では、互助という言葉よりも、共助という言葉が使われることが多いかも知れません。福祉の世界だと、互助と共助をちょっと意味を違えて、互助というのは対価を求めない助け合いの世界で、共助という時にはもう少し仕組み化されていて、場合によっては対価を伴うような、そういう使い分けをしているケースもあると思います。シェアリングエコノミーは、今日的な共助の部分を相当程度サポートする可能性があると思うんです。
 同時に、公助のほうから見た時にも大転換の可能性を秘めていて、これまで肥大化する一方だった公助の世界は、もうその先行きの限界がはっきり見えてしまっています。そもそも税金による公助っていつからやってたのだろうと思うと、そんなに大昔から今のように大がかりにやってた訳ではないんです。目に見えて肥大化したのは高度成長期ぐらいから、せいぜい50年くらいの間にわっと増えました。
 
横尾 国民皆保険や年金も、昭和36年ぐらいからですからね。
 
荒田 日本社会は公助ありきが決して当たり前ではなかったということです。
 それでは、互助に帰れというのは、単なる先祖返りではなくて、ICTというプラットフォームの中で展開できる新しい共助の世界というのは、これは公共サービスの維持という点では相当なインパクトがあると思います。
 そう考えると、シェアリングシティというテーマは、自治体として横尾市長のように真っ先にやりながら考えていく価値のあるテーマなのかなと、そんな感じを持っています。
 
横尾 そういう感覚がとても大事だと思いますね。
 
荒田 藤井さん、先ほど大都市でのビジネスモデルをそのまま地方に持っていくよりも、もう一つ工夫の余地があるのではないかとおっしゃっていたかと思いますが。
 
藤井 地元の市民側のコーディネーター、もしくは、自治体の中ですごくアクティブに市民の中に入っていくようなコーディネーターの方がいるとうまくいくというのが、1つの秘訣なのではないかと思うんですね。言い尽くされたことだと思いますが、やはりボトムアップということがすごく重要です。
 ICTの自治体導入とか、ICTによる地域活性化というのは、2000年ぐらいから総務省が実証実験だとか地方創生で予算をつけてきたわけですが、「スマートシティをやりましょう」とか「次はIoTです」みたいな大きな提案をしてシステムを導入したりタブレットを配ったりとかしても、継続利用されずに金の切れ目が縁の切れ目みたいなことが繰り返された部分があります。
 それだとうまくいかないということで、ボトムアップな、市民とNPOと地元の意識の高い市役所の職員さんとみたいな、うまい回し方というのが関係者の間で分かってきたのはここ5年ぐらいじゃないでしょうか。
 それはやはり、東日本大震災の後、NPOが地元に入っていった、あそこで経験を積んだ人というのがものすごく増えたんですよね。被災地で地域コーディネートをやって、それを被災地ではない他の全国に展開し始めた人たちが出てきました。いわゆるコミュニティマネジメントだとか、コミュニティデザインという概念というのが流行ってきたのも、やはりここ数年なんですよね。
 だから、東京の企業が、いきなり大きなICTシステムをつくりましょう、と提案する箱モノみたいな話でなくて、東京の企業自体がシェアリングエコノミー協会の会員のような、市民とのインターフェースがメッシュ型になっている、ネットワーク型の企業が入ってきているので、これはうまくいくのではないかとすごく期待しているところがあります。
 
横尾 FM佐賀で多久市の番組を持っていますが、そのコーナーをやっているディレクターとパーソナリティーが、クラウドワークスに、番組ロゴづくりを発注したのです。極めて安いのですが。そうしたら、あっという間に50件ぐらい全国から集まってきたそうです。
 これ佐賀ローカルだと、多分、数件ですよ。しかも、多久に来たこともない、住んだこともない人なのに、デザインには多久の地図が入っていたり(笑)、孔子のこととかがちゃんと入ってるんですよ。
 藤井さんがおっしゃったように、5年前、10年前には今までにはちょっとないような、クリエーティブなデザインというか、アクティビティができる素地が広がり、それに関わる人も増えています。そういう人たちが普通にSNSでやってるので、過重労働ではなく、趣味でやってて仕事が来たらラッキーという感じ、気楽にシェアできる感じかなと思いましたね。

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4.既成の社会システムとどうすみ分けるか
 
荒田 後半はシェアリングエコノミー、あるいはシェアリングシティの課題みたいなことと、これをどうやって乗り越えていったらいいのか、みたいな話をしたいと思います。
 例えば、新聞記事を見ていると、「ライドシェア 溝深く」とか「民泊 笛吹けど 物件増えず」とかいう状況があります。シェアリングエコノミーには、既成の社会システムと軋轢を起こす側面があって、それをどうブレークスルーしていくか、あるいは自治体はどう関わるか、というようなことが問われてくると思います。
 
藤井 いろんな企業やNPOの話をうかがっていると、民泊とライドシェアというのはシェアリングエコノミーの中でもちょっと特殊というか、やはりがっちりとした法律があって、なかなか身動きが取れない中で、既存の業界の方々との調整が進んでいるというところで、他の分野に一般化できないようなものというのもあるのかなと思います。
 
荒田 いわゆる業法ともろにぶつかってしまうという世界なんですね。
 
藤井 そうですね。だから、いろいろ細かいところで見ていくと、やはり料理シェアと食品衛生法の関係だとか、あと、ライドシェアではなくて、カーシェアとかに関しても規制がないわけではないだとか、いろいろあると思います。
 一つ言えるのは、段階的に導入していって、それぞれのコミュニティに合った形で地域になじませていくというのが必要なのではないかと思います。
 だから、導入期には無茶しないほうがいいのではないかと思いますね。ただ、グレーゾーンに関しては、違法でない限りは積極的にいろんな起業家が、ある程度は乗り出していくというのは必要なのだと思います。
 ただ、マクロ的な流れからいうと、シェアリングエコノミーが経済の非常に大きな部分を占めていった時に問題になるのは、労働法制はこのままでいいのかとか、社会保険のあり方というのが違ってくるのではないかとか、都市設計そのものが影響を受けてくるのではないかとか、そういった非常に大きな社会のインフラが、むしろシェアリングエコノミー的なものが半分ぐらい大きくなった時、社会の半分ぐらいを占めるようになる時までには、そこはちゃんと考えておかなくてはいけないと思うんですね。
 
荒田 横尾市長、どうでしょうか、行政の中でこの問題は。
 
横尾 昨年、シェアエコ宣言をした会場には、有名な温泉地からも来られていて、その人は今日一緒に宣言に加わりたかったと言っていました。
 なぜかというと、温泉保養地で、宿泊旅館地で、ホテル街ですから、そういう新しい宿泊場所ができると客が減りますよね。だからノーだと。それを突破していくって大変なんですよ。旅館組合はあるし、ホテル業界はあるし。ということで、今はタイミングを待ってるという話を、みんなの前で率直に話をされました。
 別のシンポジウムでご一緒した京都町屋を経営している人が、「これからの旅のトレンドは暮らすように旅することだ」と言っていましたが、これは当たっていると思います。欧米の方のバケーションは、1カ所にステイしてそこから動くのですね。日本人の観光もステイ型になる可能性があります。その土地ならではのいろんなテイストを体験するには、ファームステイとか民泊でいいと。ただ、1泊は日本ツアーの仕上げはリッチな旅館で過ごしたい。1週間泊まる予算はないけど、1日2日はあるよというふうに使い分けがある可能性があるかなと思ったのです。
 
荒田 すみ分けということですね。
 
横尾 そうしたら、温泉旅館地でも、民泊、ファームステイ、フォレストステイでも何でも、連携できるのではないかなという気がします。
 ライドシェアについては、これはタクシー業界、ハイヤー業界が非常に抵抗が多いと思います。アメリカでウーバーを使った人に聞いたら、事前に決済が終わっていて、ぼられることが絶対なくて、だめなら「だめ」って評価すればその人はもう二度とウーバーに参加できなくなるらしいのですよ。利用者の評価と、提供者の評価と、ウォッチしている第三者がいますので。
 それと現地で利用した人からは、「多分、ハイヤーかタクシーの運転手がオフの時間にやってるんじゃないか」とも言われました。土地勘とか、道路の細かいところの事情を知ってるのは彼らですもんね。
 
荒田 それなら既存の事業者と共存共栄できるかもしれませんね。
 
横尾 自治体側の課題という点では、法と制度があります。それは既にできた産業を守ったり、スタートした時の産業を伸ばすためにできたと思います。
 でも、時代はどんどん変わっていくので、新しいニーズがあったら新しいニーズに応答えられるようにもしていかないと、永遠にその人たちはサービスを享受できないですね。そこら辺のせめぎ合いというか、調整が今後は出てくるのかなと思うのです。
 だから、市民ハッピーファーストを真ん中に置いて、ではどういうふうなシェアがいいのか、どういうふうな新しい展開がいいのか、どういうふうな公と民の組み合わせがいいのかというのを一つ一つ検討しながら、今法律があるからだめよ、というのも大事な考え方ですが、それでいったら永遠に進歩しませんものね。
 
荒田 どうすればハッピーな解が見つかるか、国が法令で一律に縛るのではなく、住民に近い地方自治体がいろいろな実験を重ねるほうが早道に思えてならないです。

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5.人間味の深いプラットホームに
 
横尾 もう一つ、根本で思っているのは、シェアリングエコノミーというけれども、日本って、絆文化があるし、もやい文化があるし、伊勢講のような講の文化があるでしょう。みんなでお金を集めて、全員は行けないけれども、「あんた代表でお伊勢さん行っといで」の講とか、そういう気質と文化と歴史がありますよね。
 だから、海外とは違う受け入れ方があり得るのではないか。藤井さんがおっしゃったように、それを強烈に教えてくれたのが3.11ですよね。そういう、もやいとか絆の歴史のある日本らしい何か新しい展開を工夫して、海外のコピーではなくて、日本型で行くべきかなという気がしますね。
 
荒田 そうですね。かつて全国に広まった伊勢講の組織づくりには、それをコーディネートする御師がいました。今でいうソーシャルデザインの日本的なひな形のように思えます。
 
藤井 シェアリングエコノミーというのが、巨大なプラットフォームを民間企業がつくって、それにフリーアルバイターみたいな人たちが、細分化されたタスクをもらって、それで日々の生活の糧を得ているというだけだと、正社員がフリーランサーになっただけじゃないですか。
 そういうモデルではなくて、もう少し絆だとか、地域に根ざしていたコミュニティを生かしたような、人間味の深いプラットフォームをつくれないかという話があるんです。
 
横尾 そうそう、ハートのあるプラットフォームね。
 
藤井 欧米ではこれはギグ・エコノミー問題といわれていて、シェアリングエコノミーではなくて単に「日雇い経済」なのではないかという問題意識です。企業が昔だったら下請に出して、下請の正社員がやってた仕事を、全部どこかのフリーランサーにやらせるって、そうすると社会保障だとかどうなっていくのかという話になります。
 そうではなくて、まちの人たちが、自分たちで団体をつくって、あるいは、特殊な技能を持った人たちが自分たちでシェアリングエコノミー型プラットフォームを立ち上げる。例えば、タクシー運転手がウーバーをつくったらどうなのか。
 
横尾 それです。
 
藤井 これが欧米で「プラットフォーム・コーポラティヴィズム」(組合型プラットフォーム)と呼ばれている試みです。地域に根ざした組合型プラットフォームということが、今、世界では言われ始めています。ある海外のニュースレターを読んでいたら、組合型経済のデジタル化が成功した事例が日本にある、というんです。何かと思ったら、生協なんですよね(笑)。
 
横尾 ああ、コープね。なるほど。
 
藤井 灯台もと暗しというか。
 大きな会社によるシェアリングエコノミーは当然あってよくて、それが遊休資産をうまく使っていくという世界はあるんだけれども、そうではなくて、地元にもともとあったギルド的なものをコミュニティを守るために組合化して、そこをプラットフォームにしていくという世界も、今後出てくるのかなというふうに思っているんです。
 だから、昔のような経済成長が望めなかったとしても、豊かに暮らしていくっていうのはどういうことなんですかと。高度経済成長期のように誰でもが一軒家を買えない、正社員になれない、そうでなかったとしても、いろんな仕事を掛け持って、シェアハウスに住んでいろんなコミュニティと触れ合って、半分フリーランスだから自分のフリーな時間もあって、みたいな、そういうのがコミュニティに楽しく、より豊かに生きていくかという、価値観の転換を今後求められていくというのがシェアリングエコノミーのもう一つの側面なのかなと。
 
荒田 たしかにそうですね。
 地方の中山間地に移住した方に話を伺ったことがあるのですが、移住仲間の生計の立て方って、夫婦で、年間50~60万円稼げる仕事を5つか6つ持つというのが主流になっているんだそうです。田舎暮らしならそれで十分やっていける。
 どっちかが働いて300万円稼ぐのではなくて、夫婦2人で、例えば、自治体の仕事を何か1つ手伝いながら、自分の技能を生かしてとか、農作物をつくったりとか、小さな仕事を複数持つことで生計を立てるという志向らしいんですよ。
 そういうライフスタイルと、シェアリングエコノミーってすごく親和性があるのかなと思って今のお話を聞きました。

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6.右肩上がりでない社会を豊かに生きる視点
 
藤井 そうしないとハードランディングが待っている。ソフトランディングとは言えないかもしれないけれども、ポジティブに転換していく。
 経済成長が今までのようには望めないような右肩上がりでない社会をどうやって豊かに生きていくかっていう視点が、シェアリングエコノミーには絶対入ってくるのではないかと思います。
 
横尾 子育て中、あるいは子育てが終わり始めた人が自分の余った時間、赤ちゃんが寝てる時間、自分も社会参加したいとか、仕事したいという人ができたりするし、それで、その場に行かなくても自己実現もできたりするじゃないですか。そういう手ごたえ感とか、生きがい感というのは、一人一人の人生にとってはとても大事です。
 特にハンディキャップの方ですね。下肢が不自由だから車いす。でも、手が十分動かせて、頭は抜群の人がデザインやってる工場を見たことがあります。生き生きとしてます。だから、そういう一人一人の価値をちゃんと確認して、その発揮する場をつくるというふうな側面も私はシェアエコにあるのかなと、今、関わりながら思っています。
 
荒田 そうですね。
 
藤井 高度経済成長期やバブルのモーレツ社員みたいな生活をしていると、シェアエコってできないんですよ。シェアエコって時間と手間がかかるじゃないですか。だから、シェアエコノミー自体がある程度モーレツでない、スローライフというのを前提とした部分があるんだと思いますよね。
 
荒田 シェアリングエコノミーとか、シェアリングシティという概念は非常に広いし、深い。これからの自治体のあり方を考えるうえでとても興味深いです。
 
横尾 教育分野も、教科書の中でもいいし、社会体験コースの中でもいいですが「こういう生き方もあるよ」とか、「こういうエコノミーもあるよ」とか、あるいは、「スローライフという価値観もあるよ」とか、そういうのを教えたほうがいいと思いますね。
 年齢層も多彩でライフスタイルも違う人たちが、たまたまシェアエコをきっかけで集まって1つのワンルームでディスカッションしたりされていますが、これってシェアエコなかったら出会ってない人たちなんですよね。
 そういう意味では、ダイバーシティというか、多様性を受容して、新しい創造性をつくっていくような、そういうことにも潜在的につながるのかなって、それもおもしろいなと思います、コミュニティのあり方として。
 
荒田 ソーシャルデザインとか、コミュニティデザインとかが重視されてくる中で、非常に使い勝手のいいツールというふうな理解もできるのかなと思ったりしました。
 
藤井 そうだと思いますね。ボトムアップのイノベーションみたいなところでいうと、うちの会社もシェアリングコミュニティなかったら存在しなくて、最初はシェアオフィスで、ロゴだとかをつくる時にも、全部シェアリングでクラウドソーシングしてました。全部自前でやってたらできなかったと思います。
 
横尾 多久市で行っているセミナーには、熊本県からも、長崎県からも、福岡県からも来ています。そういう人たちをつないで、お互いの刺激にもなるし、何かやりたければやってもらったらいい。そして北部九州というか、九州というか、西日本というか、東京に集中している一方の西の情報センターみたいになればいいなと思っています。
 
藤井 いや、多久市に行きたくなりました(笑)。
 
横尾 ありがとうございます、ぜひ。
 
藤井 必ず行こうと思います。
 
荒田 それでは、この続きは多久市でということで。ありがとうございました。

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