人間味の深いプラットホームにできるかが鍵に

横尾俊彦(多久市長)×藤井宏一郎(マカイラ株式会社代表取締役)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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3.公助から共助への流れをつくる
 
荒田 先ほど藤井さんが共助、互助とおっしゃいましたが。シェアリングシティ宣言の中にも「公助から共助へ」という言葉があります。これらのキーワードが、シェアリングシティとは何ぞやという時のかなり重要な概念なのかなと思います。
 童門冬二さんという作家の代表作に『小説・上杉鷹山』があります。米沢藩の財政立て直しをやった藩主上杉鷹山の改革の指針が「自助、互助、公助」だったというふうに書かれています。共助と互助は極めて近い意味合いだと思うんです。
 
藤井 そういう趣旨のことを実践したんでしょうね。
 
荒田 昨今では、互助という言葉よりも、共助という言葉が使われることが多いかも知れません。福祉の世界だと、互助と共助をちょっと意味を違えて、互助というのは対価を求めない助け合いの世界で、共助という時にはもう少し仕組み化されていて、場合によっては対価を伴うような、そういう使い分けをしているケースもあると思います。シェアリングエコノミーは、今日的な共助の部分を相当程度サポートする可能性があると思うんです。
 同時に、公助のほうから見た時にも大転換の可能性を秘めていて、これまで肥大化する一方だった公助の世界は、もうその先行きの限界がはっきり見えてしまっています。そもそも税金による公助っていつからやってたのだろうと思うと、そんなに大昔から今のように大がかりにやってた訳ではないんです。目に見えて肥大化したのは高度成長期ぐらいから、せいぜい50年くらいの間にわっと増えました。
 
横尾 国民皆保険や年金も、昭和36年ぐらいからですからね。
 
荒田 日本社会は公助ありきが決して当たり前ではなかったということです。
 それでは、互助に帰れというのは、単なる先祖返りではなくて、ICTというプラットフォームの中で展開できる新しい共助の世界というのは、これは公共サービスの維持という点では相当なインパクトがあると思います。
 そう考えると、シェアリングシティというテーマは、自治体として横尾市長のように真っ先にやりながら考えていく価値のあるテーマなのかなと、そんな感じを持っています。
 
横尾 そういう感覚がとても大事だと思いますね。
 
荒田 藤井さん、先ほど大都市でのビジネスモデルをそのまま地方に持っていくよりも、もう一つ工夫の余地があるのではないかとおっしゃっていたかと思いますが。
 
藤井 地元の市民側のコーディネーター、もしくは、自治体の中ですごくアクティブに市民の中に入っていくようなコーディネーターの方がいるとうまくいくというのが、1つの秘訣なのではないかと思うんですね。言い尽くされたことだと思いますが、やはりボトムアップということがすごく重要です。
 ICTの自治体導入とか、ICTによる地域活性化というのは、2000年ぐらいから総務省が実証実験だとか地方創生で予算をつけてきたわけですが、「スマートシティをやりましょう」とか「次はIoTです」みたいな大きな提案をしてシステムを導入したりタブレットを配ったりとかしても、継続利用されずに金の切れ目が縁の切れ目みたいなことが繰り返された部分があります。
 それだとうまくいかないということで、ボトムアップな、市民とNPOと地元の意識の高い市役所の職員さんとみたいな、うまい回し方というのが関係者の間で分かってきたのはここ5年ぐらいじゃないでしょうか。
 それはやはり、東日本大震災の後、NPOが地元に入っていった、あそこで経験を積んだ人というのがものすごく増えたんですよね。被災地で地域コーディネートをやって、それを被災地ではない他の全国に展開し始めた人たちが出てきました。いわゆるコミュニティマネジメントだとか、コミュニティデザインという概念というのが流行ってきたのも、やはりここ数年なんですよね。
 だから、東京の企業が、いきなり大きなICTシステムをつくりましょう、と提案する箱モノみたいな話でなくて、東京の企業自体がシェアリングエコノミー協会の会員のような、市民とのインターフェースがメッシュ型になっている、ネットワーク型の企業が入ってきているので、これはうまくいくのではないかとすごく期待しているところがあります。
 
横尾 FM佐賀で多久市の番組を持っていますが、そのコーナーをやっているディレクターとパーソナリティーが、クラウドワークスに、番組ロゴづくりを発注したのです。極めて安いのですが。そうしたら、あっという間に50件ぐらい全国から集まってきたそうです。
 これ佐賀ローカルだと、多分、数件ですよ。しかも、多久に来たこともない、住んだこともない人なのに、デザインには多久の地図が入っていたり(笑)、孔子のこととかがちゃんと入ってるんですよ。
 藤井さんがおっしゃったように、5年前、10年前には今までにはちょっとないような、クリエーティブなデザインというか、アクティビティができる素地が広がり、それに関わる人も増えています。そういう人たちが普通にSNSでやってるので、過重労働ではなく、趣味でやってて仕事が来たらラッキーという感じ、気楽にシェアできる感じかなと思いましたね。

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