政治の分岐点で有権者が判断すべきこととは

政策シンクタンクPHP総研 研究主幹 永久寿夫

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 このように、円安による企業収益の良化によって、給与が増加し、それによって消費も増えるという状況はあらわれつつあるが、その循環を維持し、さらに雇用を創出していくためには、イノベーションを引き起こし、新たな投資を誘発させる必要がある。それには、最後に放たれた第三の矢である成長戦略を工程表にもとづいて確実に実施すること、さらには実効ある企業向け税制措置の拡充も必要であろう。懸念されるのは、デフレ状況からの脱却にともなう長期金利の上昇である。上昇すれば、国債の利払い費も増加する。日本の財政の信頼性を維持するためには、財政運営健全化、とりわけ確実に支出が拡大する社会保障の制度改革について、具体案を示す必要がある。
 
<外交・安全保障> 
 無難な滑り出したが課題は中国
 
 安倍政権の矢継ぎ早の政策決定によって、日本の存在感は久々に高まった。また、アルジェリア邦人拘束事件や北朝鮮の核実験といったリスクへの対応も無難にこなすとともに、TPPについて懸念されていた米国との関係でも、共同声明をまとめて交渉参加に道筋をつけた。安倍政権の外交・安全保障政策全般には安定感が認められる。中国との関係では、ハイレベルでの会談の見通しは立たず、尖閣諸島をめぐる緊張状態も続いている。韓国との関係では、新大統領誕生に際し大物特使を派遣、竹島の日記念式典の開催見送り、島根県主催の式典へも政務官の派遣にとどめるなど、関係改善に意欲をみせたが、韓国側の態度に変化はない。一方、ロシアとの関係では、安倍首相が日本の首相としては10年ぶりに訪ロし、平和条約の交渉加速、経済協力や安全保障協力の強化で合意を得るなど前進が見られた。
 
 安倍首相の対外姿勢の基本は、中国をみすえながらの「地球儀を俯瞰した(すなわち地政学的視点での)戦略的外交」「基本的価値に立脚する価値観外交」であり、中国から見て重要性の高い国々に活発な外交を展開し、安全保障面での対話や協力を強化させている。例えば、インドとは、原子力協定締結交渉促進、海上自衛隊とインド海軍の共同訓練定期化、救難飛行艇輸出協議などで合意。フランスとは、共有する価値観のため、2プラス2の開催、防衛装備品に関する協力、輸出管理に関する協議の創設など安全保障や原子力分野での協力をうたった共同声明を発表。そこには「新たな大国の台頭で生じる課題に対応」するとの文言もみえる。日英首脳会談でも、情報保護協定を含む防衛・安全保障協力の強化が打ち出され、第五回アフリカ開発会議では、民間投資や人材育成など、援助や投資を拡大する中国との差別化をはかった。注目すべきは、日台漁業協定を締結し、尖閣問題をめぐる中台連携に楔を打ち込んだことであろう。

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