日米がすべきこと、すべきでないこと

デニス・ブレア(笹川平和財団米国会長)×前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

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デニス・ブレア氏(笹川平和財団米国会長)

4.アメリカ大統領選と対アジア政策
 
前田 次に、アメリカ大統領選と日米関係への影響についてお話をお伺いしたいと思います。ドナルド・トランプ氏の言動と彼の躍進が非常に注目を集めています。トランプが大統領になった場合の外交政策は不透明すぎて、いまどうなるかをお伺いしても意味がないかもしれませんが。
 
ブレア 確かに、もしトランプ氏が大統領になった場合どのような政策を取るのかは、ほとんど誰にも予想がつきませんが、ただ、アメリカの対アジア政策をみると、1975年から非常に継続性をもっています。米軍の前方展開、ルールに基づいた行動への支持、同盟の維持、北朝鮮の封じ込めなど、これらはアメリカの対アジア政策の堅固な基礎を成すもので、どちらの党の候補が大統領になっても、たとえ新大統領が未熟で政策に精通していなくても、変化することはないと思います。アメリカの対アジア政策は堅実で、たとえば中東政策と比べると(安定性に)大きな違いがあります。
 
前田 次に北朝鮮問題についてお伺いします。朝鮮半島における中国の国益は変わっていないため、中国の対北朝鮮政策が劇的に変化することは期待できないと思います。中国が北朝鮮をかばって支援を続ける限り、問題の解決はありません。中国は北朝鮮に対する不満を募らせ、北朝鮮から足元を見られていることも理解していますが、政策を変えられない。北朝鮮からの難民に対する懸念と、韓国に駐留する米軍へのバッファとしての価値が変わらないからです。
 米国は十年ほど前、中国に対し、北朝鮮で不測の有事が発生した場合の対応についての協議を持ちかけたものの、中国が拒否したと聞いたことがあります。しかし、もしかすると今なら中国が応じる可能性も出てきたかもしれません。一つは、今のままでは事態が悪化するだけだということを中国も理解していること、また、習近平は従来の中国外交とは異なる方針も打ち出している指導者だからです。さらに、中国は悪化している米中関係を改善したいと考えていますから、北朝鮮問題に関する協議の場は、そのためにも役立つと考えるでしょう。もちろん、先述の通り、朝鮮半島における中国の利益が変わらないため、中国の対北政策に変化を生じさせるためには、米国も、条件をつけて、たとえば中国の同意なしに38度線以北に米軍を派遣しないという保証をするなどの譲歩をする必要はあると思います。ブレア会長は、北朝鮮問題に関する米中の協力は可能だと思われますか。
 
ブレア もちろん、核兵器の存在しない朝鮮半島を現実できるなら、米国は喜んで38度線以北に米軍を展開しないと中国に約束するでしょう。それらは米中双方の利益にかない、交渉の基礎を提供するかもしれません。しかし、それだけでは、トランジションの問題を取り除くことはできません。もし中国が北朝鮮に対する経済的支援を停止し、厳しい制裁に加担するなら、北朝鮮は不安定な状態になるかもしれません。難民の流入や、あるいは核兵器の流出という懸念もあり、それは中国が非常に懸念している事態です。ですから、核のない朝鮮半島という目標は共有できても、米中が合意するためは非常に難しい問題がまだあると思います。
 
前田 最後に、今年はG7サミットが日本で開催されます(※対談はサミット開催前に行われました)。様々な問題について議論がなされるでしょうか、何か一つ、特に議論すべき問題として挙げるとすれば、どのようなテーマが重要だと思われますか。
 
ブレア G7は欧州の国と北米のアメリカとカナダ、それに日本で構成されています。欧州のアジアにおける役割ということについて、日本とアメリカは、欧州の国々に働きかけ、影響を与えるべきです。ヨーロッパの国がアジアの問題について考えるとき、第一に考えるのは中国との関係で、最重視しているのは商業的な利益です。言うまでもなく、日本とアメリカは、安全保障の問題にも強い関心と利益を有しています。我々は、アジアにおける安全保障の問題について、欧州の国々にもっと情報を伝え、認識してもらうようにするべきです。G7は民主主義、自由貿易、個人の権利を尊重する国で構成されているのですから。
 たとえば、ヨーロッパはロシアのウクライナ・クリミア侵攻を非常に懸念しています。しかし、中国が南シナ海で行っていることにはあまり関心を払わず、重視もしていません。軍事力における優位性を他国に対する圧力として用い、グレー・ゾーン戦術を用いているという点で、変わりはないはずです。一方で日本には、ロシアに対する制裁に加担することに躊躇いがありました。日露関係は、欧州とロシアの関係とは異なっており、二国間関係だけで見た場合、日本にはロシアと対立する必要性はありません。もし日本が自国の国益だけにこだわっていたなら、ロシアのウクライナ侵攻を無視し、エネルギーや北方領土、中国へのけん制という目標を優先させたでしょう。しかし日本は国際社会における良きメンバーとして、制裁に加わりました。欧州諸国が、常に日米と同じ対中政策をとるべきとは言いませんが、アジアの安全保障の問題にも関心を持ち、理解を深めてほしいと思います。

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