日米がすべきこと、すべきでないこと

デニス・ブレア(笹川平和財団米国会長)×前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

3.危機管理システムをどのように構築するか
 
前田 次は、危機管理の問題についてお伺いしたいと思います。中国は、米国や周辺国と武力紛争を引き起こす意図は持っていないかもしれませんが、意図しない衝突の危険は存在し続けています。ブレア会長は、2001年に海南島で米軍の電子偵察機EP-3と人民解放軍戦闘機の衝突が起こった際、太平洋軍司令官として事態の収拾に当たられましたが、それから米中の危機管理システムにはどのような進展があったのでしょうか。実際に機能する危機管理システムを構築するためには何をすべきでしょうか。
 
ブレア 初歩的な危機管理システムはすでにできていると思います。言及された海南島での衝突もありましたし、日中間では(2010年に)中国漁船拿捕にまつわる軋轢も生じました。私は危機というのは対処できるものだと考えていますし、特に海洋での事件は、国民が多くいる場所から離れています。人命が危機にさらされているようなケースでなければ、政府間の交渉により、どちらがどう謝罪するか、乗組員にどのような対処をするかなどについて交渉が行われます。
もし人命にかかわるような危機の場合、たとえばEP-3が衝突されたとき、私は22名のアメリカ人乗組員の安否について非常に心配しました。万が一、EP-3が墜落して22名が命を落とすようなことになっていれば、事態はまったく異なる方向に動いていたと思います。中国戦闘機のパイロット1名が亡くなりましたが、危機のレベルはそれほど大きくなく、周辺地域の国々は、危機を交渉によって解決する術を知っていました。危機は、交渉によって対処され得ると考えますし、それがすぐに武力衝突あるいは非常に大きな衝突に発展するとは思いません。
 
前田 数年前、中国国内の強硬派の間では、「ベトナムやフィリピンに罰を与えるため、係争地域の島嶼や船舶を素早く攻撃し、米国や国際社会が介入してくる前に撤退すべき。米国が後から攻撃を仕掛けてくる可能性は小さく、中国の力を示すこともできる」という主張をする人もいました。そのようなケースを心配する必要はないでしょうか。
 
ブレア それは確かにあり得るかもしれません。迅速な攻撃によってプレゼンスを示し、素早く逃走するというのは中国のスタイルです。紛争状態を継続することなく、しかし相手に圧力を与え、報復を免れ得る。確かに、それは(米中紛争より)起こる可能性が大きいシナリオでしょう。他方で、そのようなやり方は、長期的に見た場合、中国に優位をもたらすものではなく、やはりコントロール可能であると考えます。もしそのような事態が起これば、我々は、他の周辺諸国に一致団結して中国に立ち向かうよう呼びかけることになるでしょう。他の周辺諸国も、中国に対する強い警戒心から、防衛力の増強を図り、米国や日本との安保協力により積極的になる。ですから、短期的には中国が有利であるように見えても、長期的には中国に対抗するための協力を醸成するだけです。
 

関連記事