政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【2】

磯山友幸(経済ジャーナリスト)×小林庸平(三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング副主任研究員)×鈴木崇弘(PHP総研客員研究員)

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6.対照的な「新しい働き方」の2つの実例
 
鈴木 関心を持ったヒアリング先と理由を教えてください。
 
小林 一番面白かったのはマイクロソフトです。例えばセキュリティーや労務管理の問題、決裁の問題など、現状の働き方を変えない理由はいくらでもあります。それらの固定観念的な理由が新しい働き方の障害になるのですが、同社は新しいIT技術でそれらを乗り越えている実例で、非常に印象に残りました。
 一方で、伊藤忠は、日本的企業が働き方を変えようしているという意味で、印象に残りました。同社は、規制をかけ自由を制約するという方法で働き方を変えており、マイクロソフトとは好対照だと思います。
 共に社会的に注目されている事例ですが、見た目の出口が180度異なり、解は1つではないことがわかり、非常に面白かった。
 
鈴木 本委員会の議論でも、企業もいろいろあり、解は一つではないという考え方が何度も出てきました。働く側が異なる会社を選択できる社会になることが重要だという考え方です。小林さんは正にそのことをおっしゃった。
 
小林 そうです。しかし、働き方も会社も多様なはずなのに、自分に適した働き方ができるのはどの会社なのか、より具体的にいえば自分に適した働き方はマイクロソフトタイプなのか、あるいは伊藤忠タイプなのか、よくわからない状況にあると思います。
 
鈴木 わからないけれども、自分をチェック・確認する作業を人生の中に置いておくことが重要だということを、本提言は述べています。
 
小林 そういう意味で、いろんなタイプの企業や人があるのがいいですね。そして自分をセルフチェックでき、各企業がどんなタイプの働き方を採用しているかがわかるのがいい。「見える化」されていて、自分に合うのを選ぶ感じでしょうか。
 
磯山 現状の中で、企業はいろいろ工夫をしていて、多様な働き方に応える努力をしている。その意味で、サイボウズは、自己の状況で仕事の仕方を選べるので、非常に面白い。ただ過渡的な段階だと思いました。マイクロソフトもそうですが、今の法律などの枠組みの中で、かなり無理をして合わせていると感じます。
 社員と会社の関係はお互いに自律しないと無理という感じがします。マイクロソフトやリクルートなどは、会社と社員との関係が終身永続の前提に立っていません。それらの会社では、優秀な社員は自律し、転職したり自分で会社つくる。そのような会社の多くは、自律を前提にした取り組みをしている。いずれ社会全体がその方向に行くでしょう。
 その意味で、提言で気に入っているのは、各社が「働き方」を情報開示するように求めている点です。企業が従来はしてこなかった、自社の働き方を社会的に明示するようになれば、働く側もそれを選んで自己実現する契約社会となり、その中でルールができることでしょう。
 
鈴木 可視化する。しかも雇用契約を結び、会社と社員が相互に確認するわけですね。
 
磯山 それは今、本当に必要なことです。実現は簡単で、金融証券取引法の金融庁の情報開示政令の中に、その項目を入れれば、上場企業は来年4月からでも導入できます。   
 
鈴木 企業は今、過渡期にあると思います。これまではWLBとか、女性の活躍を全然考えてこなかったような業種、例えばゼネコンでも、関連のセクションをつくって、猛烈と改革をやっています。アベノミクスで女性活躍が謳われて進んでいる面もあります。
ただそれ以上に、各企業が対応をしないと、人を確保できない、生き残れないという、切羽詰った現実があるという気がします。
 
磯山 他方、今回のヒアリングで象徴的だったのは、世の中をこれまで動かしてきた勢力の話は、主義や主張を繰り返すだけで、面白くなかった。
 
鈴木 ただそういう勢力にとっても、実は今こそチャンスだと思うんですがね。
 
 

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