政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【1】

小峰隆夫(法政大学教授)×小島貴子(東洋大学准教授)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

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7.従業員の幸せが会社の発展になるという経営者の意識
 
永久 経営側の立場に立つと、契約があるということは、「先が読める」ということでもありますね。契約がないと、柔軟といえば柔軟なのですが、将来の状況が読めないので、人事戦略が立てづらいという側面があったと思いますが、これだと、いろんな選択はあるけれども、その組み合わせでどういう形になるかというのが見えてきます。「経営側は大変かな?」とも思ったのですが、この面ではそうでもないかもしれませんね。
 
小島 これからは「会社員」ではなく「社会員」という発想が必要だと思います。「属している企業はあるけれども、社会の一員である」ということです。いわゆる「社畜」みたいに、人生の大半を一つの会社で過ごすという時代はもう終わりです。「2枚目の名刺」とか、サードプレースなど、多様なかたちで社会とのかかわりをもちながら、全体をよりよい方向にもっていくという考え方をもつことが重要です。その時に、経営者には「自分の社員が幸せであること=うちの会社の発展」であるという思想をもってほしいし、そうじゃない会社は苦しくなると思うのです。
 もう一つ重要なのは、「人間大事」ということ。ある経営者が「育休や産休は最初から折り込み済みなのだから、戻ってきた時に頑張って働いてくれればいい」と言うのを聞きました。会社の経営者は、従業員の幸せというものに対して責任をもつという意識がないといけません。
 一方、従業員はみんな使い捨てみたいなブラック企業で働く人が、みんな不幸かというとそうでもなくて、そういう会社が大好きという人もたくさんいます。自分のもっている労働観や幸福観と、仕事に対する企業の価値観が一致することが一番の幸せなのですが、会社に入るときには、それが見えにくいのです。
  
永久 企業はその情報をきっちりと出さなければいけないし、働く側は自分でその情報を見ながら選択しなければならないということですね。また、働いている途中で、自分の状況や価値観も変わってくるし、企業のほうも、経済環境が変わる中で生産性を高めていくためには、自らを変えていかなければならない。だから、多様で柔軟な働きを保障する一方で、働く者の移動が比較的自由にできるようにする必要がある。
 

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