政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【1】

小峰隆夫(法政大学教授)×小島貴子(東洋大学准教授)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

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小島貴子氏(東洋大学准教授)

3.「新しい勤勉(KINBEN)」を数値化し企業業績との相関を見る
 
小島 働いている人の幸福感はみな違うのだけれども、承認欲求や成長実感といった共通性もあると思います。それらをきめ細かく経年測定して、それを自分自身が実感できるようにする。と同時に、それと比較しながら企業の利益も見ていく。「この仕事、一回は失敗したけれど、反省して勉強したことによって、次にはうまくいって幸福感を得たし、会社も利益を得た」ということになったら、働き方はどんどん変わっていくのではないでしょうか。
 つまり、「新しい勤勉」を数値化して測定し、企業の利益との相関を見る。それが正比例の関係にあれば、働く者は、もっと幸せになろう、もっとやろう、ということになるし、企業側もそれで利益が上がるとなれば、それを促進するような制度をどんどん導入するようになる。これはムーブメントになるのではないかと思います。
 
永久 提言に至るプロセスで、さまざまな企業や団体にヒアリングに行きましたが、近年急成長しているある企業では、働き方のオプションがいくつもあって自分で選択できるというのに驚きました。兼業も認められていて、一人ひとりの評価の軸も違いました。実態をもっとよく調べないといけませんが、社員一人ひとりが多様な制度の中で自分に合った仕事の仕方をしているため幸福感や満足感が得られやすく、しかも会社全体のパフォーマンスも上がっているという、新しい勤勉の価値観からすると、現段階においては理想的な状況に見えました。
 
小島 ある企業での事例ですが、理系の部門でメンタルの問題が頻発する状態が10年ぐらい続いていて、そこにたまたま、日本語がほとんどしゃべれない女性の研究者が客員研究員として外国からやってきたのです。そうしたら、一気にその部門の男性たちが生き生きとしだして、この2年間、まったくメンタルの問題が起きないのです。自分の仕事を誰かに伝えるとか、分け与えるとか、助けるということで日本人のメンタリティはよくなるのです。
 いま、ワーク・ライフ・バランスとかダイバーシティが行き詰まっているところは、育休だとか産休は個々人の問題だから、制度を使って各人が何とかする、というレベルでよしになっている。でも、うまく行っているところは、みんなで、「人ごとではなくて、自分ごとで考えようね」という思想のベースができている。「新しい勤勉」の中には、日本人が持っている助け合いの精神も重視されていますし、今後はそうした成功事例を、ストーリーとして伝えることも重要になりますね。
 

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