政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【1】

小峰隆夫(法政大学教授)×小島貴子(東洋大学准教授)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

resizedD8A_0259
小峰隆夫氏(法政大学教授)

2.幸福度と経営のバランスを考え試行錯誤で解を探す
 
永久 研究会のなかで、「個々人の幸福感を大事にしていきたい」という議論と、それだけを追求していっては企業、あるいは社会全体が成り立たなくなってしまう可能性があるという議論がありました。その相対立するかもしれない働き方の方向性をいかに調和させるのかがポイントの一つだったと思います。
 
小峰 結論はやはりバランス。一人ひとりの行動と企業の対応をうまくマッチングさせなければいけません。これまでは、企業の人材育成に頼る面が大きく、どうしても画一的になり、個人の価値観や多様性が否定される側面があった。これからは、個々人のキャリア形成と、企業が必要とする人材の育成をうまくバランスさせていく必要があります。
 ただ、一人ひとりが自分の能力を最大限に発揮し、しかも楽しく、少なくとも嫌々ではなく働く、ということと企業が期待することを調和させるのは容易ではありません。最初から「解」が与えられているのではなく、ここで提言した具体策などを取り込みながら、試行錯誤を通じてたどり着くのだと思います。
 長期雇用、年功賃金、企業による人材育成といったいわゆる日本型雇用も、誰かが設計したわけではなくて自然に出来上がったものです。それをもう一回、再構成して、新しいやり方を見出していくということです。
 
永久 ただ、一度固まってしまったものを動かすのは、相当エネルギーが必要ですね。そういった意味で、単に政策をリストにして提言するのではなく、一つの新たな価値観を提示して、それを軸として原則と政策提言を論じるという今回のスタイルは、マインドセットを変える一つのインパクトになるかなと期待しています。
 
小峰 経済学では「ヒステリシス」といって、ずっと長い間同じことをやっていると、何となくそれが当たり前だと思ってしまって、変えるのが難しくなる。ただ、一方で、環境庁、現在の環境省で仕事をしていた自分の経験から、新しい概念や価値観をうったえ続けるのは有効だと思います。当時、何かの開発があるたびに環境庁が出て行って、「環境に配慮しつつ」という言葉を入れて下さいと言っていたのですが、それをやっているうちに、それが当たり前になってしまいました。
 

関連記事