折木良一(第三代統合幕僚長)×金子将史(PHP総研首席研究員)

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5.平和安全保障法制が日米同盟にもたらすインパクト
 
金子 平和安保法制や、その中に含まれる集団的自衛権の限定行使は、日米同盟に与えるインパクトとしては、何が一番大きいとお考えですか。
 
折木 やはりアメリカの立場から言えば、アメリカ一国で対応できるという時代ではなくなり、影響力も相対的に低下してきた。それをカバーするのは、日本を初め関係各国だと思います。
 その中で日本が今回の法制を整備したということは、いつもではなくて、いざという時、日本の国益、安全のためにというのが一つの歯止めですが、そのような状況になった時には、アメリカや関係国と一緒に限定的な集団的自衛権は行使できますということで、自衛隊の権限の幅や、行使の幅が広がるのは、アメリカにとっても大きい。
 もう一つは、地理的な範囲が、後方支援も含めて広がる。これはものすごくアメリカにとって心強い話だと思います。
 
金子 具体的には、どの地域といいますか、どういうケースで一番効いてくると思われますか。
 
折木 事態区分は別にして、状況から考えれば、やはり北朝鮮、台湾、中東とかそのあたりが焦点になってくるのではないでしょうか。
 
金子 南シナ海も焦点だと思いますが。
 
折木 南シナ海は複雑なので、そこは事象に照らしてよくよく考えてやらなければいけない部分だと思います。
 
金子 情報交換とか、ISR(情報・監視・偵察)はともかくとしてですね。
 
折木 ええ、もちろんそうですね。
 
金子 情報交換にしても、これまでの法律でもできていたかもしれないけれども、もしかしたら集団的自衛権に当たるかもしれない、訓練もそうだと。そこを、ここまでははっきり大丈夫だと確定する、主として平時の話ですが、そこは大事ですね。
 
折木 そうです。情報にしても、これまでは集団的自衛権に関わるような情報のやりとりはできないから、アメリカも情報の蛇口を締める、日本も蛇口を締めなければならなかった。そういうことでやってきたけれども、これから一緒に集団的自衛権で一緒に行動するかもしれないといった時には蛇口を緩めなければいけないわけですから、情報共有という面でも意義は大きいと思います。
 
金子 この法案は、米国との同盟関係にとってはポジティブでしょうが、他方で、日本がアメリカにこれまで以上に頼れるようになっていくというわけではない。むしろ日本が自分でやっていかなければいけない側面が増えると思います。具体的にどういうところをやっていくことになるのか。
 
折木 そうなんですよね。「日米同盟を強化していきます」というのは、「頼っていきます」という話ではなくて、やはり、自分の国はどうしたいんだ、どうしなければいけないんだということが前提だと思います。
 私がいつも言っているのは、東日本大震災でもそうで、自分のところの災害は自分でまず対応しなければならない。
 今まで盾と矛で機能補完をずっとやってきましたよね。もちろんそれも大事だけれども、日本の陸海空自衛隊が、能力は限定されますが、自衛隊だけできっちりした対処ができるような態勢づくりをやっていかなければいけない。その前提として防衛力整備が重要になってきます。
 ただ、現在の2倍も3倍も防衛費が使えるわけではないから、それこそ統合運用の観点で優先順位をつけて整備していくのだろうなと思っています。
 

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