問われるのは環境変化に合った社会づくり

松谷明彦(政策研究大学院大学名誉教授)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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5.東京劣化は避けて通れない
 
荒田 お話を伺っていると、結局、東京の劣化というのは避けて通れないと……。
 
松谷 絶対避けて通れない。マクロ的な人口構造とか経済のマクロ的な変化は不可避の変化です。そのなかで、公共施設だったらきちんとストック管理をして、今は使えるものを潰す必要はありませんが、耐用年数を迎えた時に、いまなら必ず建て替えるところを、「これは建て替えるのをやめよう」とか「残りのこっちで間に合わせよう」と、東京なら都内にある公共施設を全部点検して、全体として公共施設の残高を、例えばいまの3割減にする。単に全部落とすのではなくて、重要なものは残し代替的な公共施設を組み合わせることによって、全体として最適な形で7割まで計画的に縮小していくという感じです。
 それから、民間のオフィスビルに関しては、行政指導でこれを抑え込んでいく。
 
荒田 そういう計画をきちんと描いて実現していくのは、みんなで合意しながら進めるのはなかなか難しい事だと思います。誰かが強権的にやるしかないようなイメージも感じますが、どうでしょうか。
 
松谷 パリの街なみがなぜあんなにきれいになったかといったら、ナポレオン3世という専制君主がいたからです。あの時代に、パリの街なみと道路の幅の広さが全部でき上がったわけです。ロンドンも大火で全部なくなったのでクリーンナップするチャンスがあった。
 
荒田 日本の場合には、ある程度劣化が目に見えるようにならないと気付かない。
 
松谷 いまは公共の力が落ちていますよね。まちづくりを中長期的な観点からやっていくとなると、結局ある程度スラム化が進まないとコンセンサスが得られないでしょうね。
ニューヨークだってそうですよね。ものすごく劣化が進んできたので、人々もしかたないなと感じたのです。そうすると、2020年代の後半、30年ぐらいの初めから東京の劣化が始まって、だんだんひどくなって2050年ごろには人々の間にそういう意識が醸成されてということかもしれませんね。
 
荒田 なるほど。公共施設のストック管理については、全国の多くの地方自治体も問題意識を持つようになっています。総量の抑制が必要なことは、誰もが理解するのですが、それでは具体的に「何を潰すか」に議論が進んだとたんに話がストップしてしまう例も見聞きします。できることなら、誰かが強権的に行ったり、劣化が顕在化してはじめて手を打つのではなく、予防的に策を講じられる日本社会であって欲しいものです。その時のキーワードは「合意形成」にほかならないと思われます。東京劣化を食い止めるかどうかは、私たち自身の「変える力」にかかっているという意味で、今日は大きな宿題を与えられたように感じます。ありがとうございました。
 
【写真:遠藤宏】

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