問われるのは環境変化に合った社会づくり

松谷明彦(政策研究大学院大学名誉教授)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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荒田英知(PHP総研主席研究員)

3.東京劣化はいつごろ始まるか
 
荒田 さて、東京劣化という時に、いつごろ何が起きるのかということをどうやって見定めていけば良いのでしょうか。
 
松谷 ポイントになる年は2030年だと見ています。なぜかというと、2025年を境に生産年齢人口が減少に転じ、東京圏の県内総生産成長率が2030年を境にマイナスになるからです。また、同時期以降、東京の一人当たり県民所得成長率は、例えば、秋田県や島根県よりも低くなります。東京と地方の格差は縮小するというわけです。
 
荒田 まだ15年あるとみるか、あと15年しかないとみるか、微妙ですね。
 
松谷 東京の劣化の中で一番怖いのはインフラの劣化です。公共インフラと民間インフラがありますが、ともに劣化します。民間インフラの方は、経済がプラスである限りは再開発のインセンティブがあります。しかし、経済成長が滞ると途端に再開発が止まりますから、民間ビルのメンテナンスないし建て替えは2030年以降は急速に鈍化します。
 一方で公共インフラの方は地域別に予測することが非常に難しいです。日本全体であれば2020年代の半ばぐらいですね。日本全体の公共インフラの更新投資と維持補修費をストック推計すると両者が交差するのが2025年ぐらいです。
 
荒田 新しい施設をつくれなくなるということですね。
 
松谷 新しい施設をつくれないどころか、今ある公共施設も十分な維持更新ができなくなります。それが2025年ぐらい。もちろん経済の状況によっては、少し後ろに倒れるかもしれません。日本全体としては、2020年代の後半以降にそういう危険性が出てくるというのが、一番正確な表現でしょうか。
 東京の公共インフラがどうなるかというのは、要するに、政府が東京のインフラにどれだけお金を投入するかという話です。日本全体がだめでも首都ぐらいは何とかすると決めれば、東京は劣化しません。けれども、政治的なバランス等から公共事業の県別配分は概ね今のままだとすると、東京の公共施設の劣化は2025年過ぎから始まり、民間は2030年過ぎから劣化が始まるということになります。
 
荒田 たしかにいまの状況で東京にだけ集中投資しようとすれば、地方から政治的な反発が起こることは必至ですね。
 
松谷 民間資本、公共資本の劣化は、東京に限らず、農村も含めてすべての地域で起こる話です。東京の場合には大阪、名古屋も同じですが、全部がコンクリートなのが問題です。農村に行くとコンクリートはごく一部で、あとは自然です。極端にいえば、農村は公共投資や民間投資ができなくなると自然に帰るだけの話です。
 ところが東京の場合は、湾岸部をみても横須賀から木更津までの約160キロにわたって全部コンクリートの岸壁です。これは元の海浜には戻りません。海岸線が劣化して、朽ち果てていきます。東京の社会資本の劣化の中でも、一番危ないのが湾岸です。日本は重厚長大産業を戦後の成長の核にしてきましたから、鉄鋼や石油化学等、原材料を外国から持って来る必要のある産業が湾岸部に立地したのです。この先起こる投資の縮小による産業構造の変化が、湾岸をがらがらにしてしまう。壊すこともできないで、非常に劣悪な状態で湾岸が残ってしまうということです。
 
荒田 世界遺産の候補になった、長崎県の軍艦島のイメージですね。
 
松谷 あのイメージがこれから東京湾岸の随所で起こる可能性が出てきます。とりわけ、利便性の低い場所から劣化が始まって、深刻化していくと予想されます。
 
荒田 当然、オフィス街にも同じような状況が生じますね。
 
松谷 こちらは民間インフラがどうなるかですが、今後50年間で東京の経済力はいまの4分の3ぐらいになります。経済が4分の3になれば、4分の1ビルは要りません。
 
荒田 放置されるということですね。
 
松谷 放置されて、建て替えもできない。ただし、丸の内や日本橋など、従来どおりメンテナンスがなされる所がある一方で、多数の空きビルが林立するところもある。劣化は平行、均質に進むのではないというのが一番怖いことです。
 

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