強い意志をもった楽観論で未来を切り拓け

牛尾治朗(ウシオ電機株式会社代表取締役会長)×永久寿夫(PHP総研研究主幹)

 松下幸之助がみずからの「相談役」としていたのが、年齢が40歳近くも若い牛尾治朗氏(ウシオ電機代表取締役会長)である。松下政経塾を設立する際、「政治家の地位は自ら勝ち取るもので、育てるなどというヤワなやり方ではだめだ」と反対する牛尾氏に、松下幸之助は「自分が塾長をやるから、副塾長になってくれ」と協力を要請したという逸話がある。日本青年会議所会頭、第2次臨時行政調査会(土光臨調)専門委員、経済同友会代表幹事、経済財政諮問会議議員などを歴任し、長きに渡って、わが国の改革に携わってきた政財界の重鎮・牛尾氏に、今後の日本が進むべき方向についてお話をうかがった。

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1.福祉の無駄はもっと省ける
 
永久 2009年に民主党による政権交代があり、12年に自民党が政権を奪還。昨年の総選挙では、自民党が基盤を固める結果になりました。牛尾さんは、この数年の政治の動きをどうとらえていますか。
 
牛尾 民主党による政権交代は画期的なことで、想定より3年ぐらい早く実現しました。ただ、彼らは、政権を担う学習をほとんどしていなかった。社会観や哲学的な考察を欠き、やりたいことを並べ立てたら、それができると考えてしまった。ところが、そうはいかない。国民からは失望されてしまいました。
 
永久 そんなイメージができてしまいましたね。
 
牛尾 その責任は、新政権の軸になった小沢、鳩山、菅の3人、またまたそうせざるを得なかった民主党の体質にあったと思います。
 
永久 最後の野田総理はどうですか。
 
牛尾 彼は、人や国の根本的なところを考える人だから、期待をしました。社会保障と税の一体改革に関する3党合意を実現させたのは評価すべきです。日本の将来を考えると、税収を増やすと同時に社会福祉の無駄を徹底的に省かなければいけない。合意の内容は民主党の最もきらびやかな思想をあらわしています。
 
永久 それを受けとめた当時の自民党総裁・谷垣さんも立派でしたね。
 
牛尾 ただ3党合意に基づいて設置された社会保障制度改革国民会議からは無駄を省くための具体的な案が出ませんでした。僕は無駄を省くだけで相当な額の社会保障費が削減できると考えています。たとえば重複診療の禁止を徹底するだけでも、かなりの医療費が削減できるということは、自治体での取り組みなどを見ていても明らかです。
 
 

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牛尾治朗(ウシオ電機株式会社代表取締役会長)

2.経済の繁栄にはすばらしい経営者を育てること
 
永久 安倍政権が消費税率アップを先延ばししたことも、3党合意の実現を鈍らせている印象をあたえますね。安倍政権は、これから何に取り組んでいくべきでしょうか。
 
牛尾 経済繁栄ですよ。デフレは日銀との非常にいいコミュニケーションで脱却したといえますが、これだけでは十分ではない。経済の繁栄には、やはりTPPを軸として、グローバルな展開をはかる必要がある。だから、安倍総理が五十数か国を周り、経済協力をひたすら訴えたことは評価できます。ですが、経済をよくするには、すばらしい経営者が育つことが必要です。そこがあまりうまくいっていない。
 
永久 その原因は、どこにあるのですか。
 
牛尾 成功した企業の大部分が旧態依然とした体制だということ。年功序列で定年延長となれば、よほどのことがなければ一生安泰です。抜擢も少ない。だから、若い人に全然元気がない。
 
永久 若い人たちには、イライラ感や不満がたまっているような感じがしますね。
 
牛尾 そういうところはまだいい会社ですよ。大部分は不満すらもたず、何もしない。昔はみなこぞって希望した海外勤務も、日本が余りにも住み心地がいいから、いまは誰も行きたがらない。留学生制度でも、高いときは5倍ぐらいの競争率があったのに、いまはウシオ電機でも競争倍率が著しく低下しています。給料を全部出して、授業料も出して、書籍代まで援助するのにですよ。昔はそうじゃなかった。修士号を取るのに、みな精一杯で、胃潰瘍になって留学から帰ってくるほど厳しいものでしたが、そういう社員がいまの会社の主力を占めている。
 
永久 厳しい競争に勝ち残ったから、世界標準で仕事ができるということですね。
 
牛尾 だから、東京大学でも、入学は難しく、卒業も難しくすべきなんですよ。僕はカリフォルニア大学に行っていたけど、バチュラー(学士)コースを卒業できるのは入学者の3割ぐらいでしたよ。
 
永久 そうですね。その代わり、逆もありますよね。勉強していい成績をあげて、コミュニティカレッジから編入してくる人間とか、まずは働いてお金を貯めてから大学に入る人間とか。いずれにしても厳しい競争や努力を求められる環境がある。
 
牛尾 教える側も同じでしょう。日本の大学の先生は基本的に終身雇用だけれど、アメリカは3年や5年契約。だいたい1割くらいの優秀な先生だけが終身雇用を保証されるわけです。最近、アメリカでも3割くらいに増やしているけど、日本の悪いところはマネしないほうがいい。

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永久寿夫(PHP総研研究主幹)

3.シルバーデモクラシーを払拭する
 
永久 日本のほうが治安もいいし、食事も美味しいし、居心地がいいから、若い人が海外に出たがらなくなりましたよね。だから国際的な競争にさらされない。国内でももまれない。
 
牛尾 しかも、母親が子どもを溺愛するからね。宿泊、洗濯、食事つきでずっと実家にいれば、結婚をする気にもなりませんね。
 
永久 それがある意味、日本の活力を低下させている。
 
牛尾 だから、大学に入学するくらいの年齢から競争にさらさないとだめです。今度の選挙権の18歳への引き下げは、彼らを競争にさらすという決意のあらわれです。
 
永久 選挙権が18歳からになったら、自分たちの利益を選挙で主張するようになる。それが政治を活性化させる。そういうお考えですか。
 
牛尾 いまは高齢者の利益が過剰に反映されるシルバーデモクラシーになっているわけです。退職者はもちろん、50歳以上で退職が見えはじめた人たちは、自分たちのために余計に税金を使わせること、つまりタックスイーター(tax eater)を目指し、積極的に選挙する。
 
永久 定年退職後は所得が激減するわけですから、それは合理的な選択とも言えますけどね。
 
牛尾 ですが、タックスペイヤー(tax payer)デモクラシー、つまり納税者による民主主義を確立しないと、支出が膨れ上がってこの国は破産してしまう。だから、これから納税していくという18歳から選挙権をもたせて、若いタックスペイヤーを中心に制度を整えていくと同時に、元気な人は75歳まで納税者になれる社会をつくる必要がある。
 
永久 ただ、いまでも若者の投票率は低いので、選挙権が18歳からになったとしても、実際は投票に行かないかもしれません。
 
牛尾 当面はそうだと思いますよ。しかし、社会福祉など高齢者対策ばかりに税金が回っていることが、次第に分かってくるはず。どこかで若い人が目覚めるのではないかと期待するわけです。
 
永久 そういう意味では、義務教育のころから、市民教育というか、世の中がどう成り立っているかをきっちり教えていく必要がありますね。
 
牛尾 そう。入学試験もそういうことを勉強しないと合格できないようにする。
 
永久 一方で、75歳まで納税者であり続けるというのは理屈ではわかるけれども、年齢と能力は必ずしも比例しないので、働く立場からも経営者側としても、しんどい面がありますね。社会的に適材適所ができるように、雇用の流動性を高めなければなりません。
 
牛尾 22歳で大学を卒業して、同じ会社に53年もいる、そんなバカなことはない。仕事は大体2回変わるようにすればいい。まず、22、20歳で就職する。そして35から40歳くらいで転職する。そのまま転職する自信のない人は、学校へ行ってもう一回勉強する。アメリカのMBAはそうやってできたんです。
 
永久 『Voice』3月号で書かれていましたけれど、2回目が50から60歳で、ボランティアや社会的起業なども含めて、自分のやりたいことをやる。
 
牛尾 定年制は高齢者のそうした可能性を迫害する制度なんです。だからなくせばいいんです。年功序列賃金もやめて、能力ある人に賃金を加算するような制度にすればいいんです。
 
永久 厚生労働省のいまの政策って、逆の方向に進んでいますね。
 
牛尾 まったく逆です。行政はみな、逆が多いです。

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4.故郷に帰って起業すべし
 
永久 ところで、消費税率アップを延期した一方で、社会資本整備の予算は増やす傾向にありますが、これについてはどうお考えですか。
 
牛尾 政府の費用で景気をよくしようというのはやめたほうがいい。だから、3党合意で10%までの増税を決めたけれども、安倍政権は半分延期したんですね。やはり、無駄な費用を削減するほうが先決だからと。
 
永久 でも、無駄の削減はなかなか進んでいないように見えます。個人的に、毎年、政府の行政事業レビューの評価者を委嘱されるのですが、削減すべきと指摘された事業が、そのあと体裁が変わっても、実態はまったく変わらないようなものが少なからずあります。これを徹底すべきということですね。
 
牛尾 そうですよ。そうしないと支出はどんどん増えていく。たとえば、介護に対する予算は2000年まではゼロだったんですよ。その後、介護保険制度がつくられて、いまでは給付の総費用が9.5兆です。2025年になると21兆円程度になるという試算がある。
 
永久 1年につき1兆円弱増えていますね。大雑把にいうと、一人当たりの負担が1万円ずつ増えていることになります。
 
牛尾 介護保険制度がなかったころは、大家族主義で、家で両親の面倒を見ていたわけです。扶養家族控除はわずかな額ですよ。そこに、こういう制度ができると、子供夫婦はいち早く親を介護施設に入れちゃう。親も泣く泣く行くわけですよ。だから、施設という選択肢は残しつつも、家で面倒を見ている人には、徹底的に減税すべきだと思う。福井県や富山県では、6割がそうした大家族で、出生率が1.5ぐらい、経済も順調に行っているんですよ。
 
永久 たしか、富山や福井は、一人当たりの畳の枚数が多いとか。平均的に家も大きいですね。
 
牛尾 そうそう。おじいさんとおばあさん、それに3組の子供夫婦、つまり6人が働きに行く。おじいさんおばあさんが孫の面倒を見るから、レベルの高い保育ができる。日本の美徳として、三代にわたって相互に助け合うという社会協力の基本があるんです。それを忘れ、介護施設に頼るから、世界の先進国に比べても、介護費用が大きくなってしまう。
 
永久 ただ、現実的に、東京近辺でそれをやろうと思っても、物理的に家が小さくてできないとか、両親が住む故郷に帰っても仕事がないとか、いろいろ課題はあると思います。
 
牛尾 東京では、先の見込みがない人が7割だからね。そういう人は故郷へ帰ったらいいですよ。
 
永久 ですが、仕事がないとなかなか帰れませんよね。
 
牛尾 その仕事をつくるのが、その7割の人たちです。中間管理職でまあまあ優秀だけれども、それより上は難しいという人たちが10人束になって会社をつくれば、結構いいものができますよ。いま東京の上場会社は、初任給で22万から25万円、ボーナスを入れてそれを18カ月分ぐらい払っているわけでしょう。そういう会社は地方にはあまりない。だけど、月収16万円でも、実は地方のほうが生活は豊かなんですよね。
 
永久 僕も地方出身ですから、それは実感します。JターンとかIターンも含めて地方に帰っている人たちは多少増えているようですね。
 

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5.自分の考えで決められる人を育てる
 
牛尾 増田寛也さんが座長を務めた「日本創成会議」人口減少問題検討分科会が、このままだと2040年までには約半分の自治体がなくなると発表しましたね。たしかに与件が変わらなければそうなるかもしれません。しかし、75歳まで働く納税者が増えれば高齢者福祉のコストは下がり税収も上がる。女性の管理職の数が2倍になって、給与も2倍になれば、女性の払う税金は4倍になる。さらに日本で働きたいというアジアからの優秀な学生を受け入れる。そうなったら、また違う未来になるはずでしょう。カギは、高齢者と女性と外国人です。
 
永久 先ほどの、地方に帰る人を増やすことと地方の活性化をセットでやればいいというお話は、冨山和彦さんが『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)で書いているL(ローカル)型、つまり、国際市場を目指すG(グローバル)型ではなく、地方の需要に合ったビジネスを展開する原動力にもなりえますね。その文脈で、地方の大学は、もっとローカルな需要に徹した教育をすべきだという話もされていますが、いかがですか。
 
牛尾 昔、一高から八高といういわゆるナンバースクールのほかに、地方に40ほどの旧制高校がありました。みな100人ぐらいしか採りませんから、地方のエリート養成校です。そこを出ると、ほとんど無条件で国立大学、帝国大学に入れました。そういう人が東京で大会社に入るわけだけど、最後は故郷からの期待に応えて地方に進出するんですね。だから、地方も旧制高校の学生を自分たちの宝として若い時から大切に育てるんです。
 もう一つは、旧制高校に学力的に入れない子や貧しい家の子は、工業専門学校とか経済専門学校に行って、卒業したらすぐ工場長や経理部長になる。そういう地域に密着した現業を勉強させていた。
もっと貧しいが優秀という子は、国鉄学校(東京鉄道教習所)とか郵政学校(逓信官吏練習所)などに入って、給料をもらいながら勉強する機会を得た。そこから労組の委員長などが出るわけです。
 さらに、海軍兵学校とか陸軍兵学校みたいに、ナンバースクールよりかっこよく、国に奉仕をする人材を育てる学校がある。終戦後、そういう人たちが帰ってきて、日本の大変革を導き、奇跡の成長をつくったわけです。
 こういう人たちは全体の2~3%ですよ。いま、大卒者の割合は60%ほどになっているけど、国や地方のことなどは考えずに、専ら終身雇用を求めているだけです。
 
永久 こうみると、G型、L型というよりも、むしろ多様な教育の仕組みが過去にはあったわけですね。
 
牛尾 もう一回、元へ戻したらいいんですよ。いま注目は科学技術大学です。豊橋科学技術大学と長岡科学技術大学では、高等専門学校を卒業した人のために学部3年から修士まで一貫したプログラムまである。ここにはアジアからの留学生も多い。就職率はほぼ100%です。僕はそこの学生たちにも奨学金を出しているんです。
 
永久 専門性と即戦力が身につきますよね。
 
牛尾 一方、最近の大学は哲学を勉強しなくなった。昔は、旧制高校でも大学でも哲学を議論したわけです。遊びもしましたが。哲学を勉強した人は、経営能力や指導能力がなくても意識が高いから、みなさん社会の一角で貢献してるんです。
 
永久 デカンショで半年暮らして、あとの半年は寝て暮らす、ですか。哲学的なもの、教養的なものが、経営者なり、政治家なり、あるいは市民としてのあり方なりを育てる基盤なのに、最近はそれが希薄になっているわけですね。アメリカなんかでは、依然としてリベラルアーツカレッジの評価は高いですよね。やはりそういうところを出た人の社会的貢献度は大きい印象です。
 
牛尾 本当に戦後を見直すなら、まずは教育制度からです。自立と自律ができる人たち、自分の考えでものを決めることができる人間を育てることです。そういう人たちが中核層として国をつくっていく。そういう姿がほしいですね。
 
 

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6.軽武装経済重点主義を貫け
 
永久 ところで、安倍政権は、武器輸出三原則の変更や集団的自衛権の解釈の変更をし、これからは憲法9条の改正にも取り組むのだろうと思われていますが、こうした動きをどう評価しますか。
 
牛尾 日本の保守本流は、吉田茂以来、軽武装経済重点主義です。日本の教養ある指導者の8割はこれを支持していると思う。ただ、インターネットなどもそうですが、先端技術などの半分は防衛産業の中から生まれてくるわけで、防衛産業を国際的に展開できないと科学技術や産業の面で世界から取り残される。さらに軽武装といっても、周辺のレベルからみると、まったく役に立たないものになる恐れがある。これでは専守防衛は成り立たちません。
 
永久 安倍政権の方向は、軽武装経済重点主義の観点からも、理にかなっているということですね。
 
牛尾 外交的に影響力が大きいのは、金銭的な経済協力です。だから、ODAを減らすのは間違いで、福祉予算を2割下げても、例えばエチオピアの老人を大事にするという精神を忘れてはいけませんね。
 
永久 それは日本の仲間というか、サポーターを増やす、維持するという、そういう意味ですか。
 
牛尾 そうです。これまでの努力によって、日本に対する評価は高くなりました。だから、米タイム誌の「国家イメージランキング」でも英BBCの「世界に良い影響を与えている国」でも、日本は世界1位になっているじゃないですか。それが日本の外交力を高め、繁栄を継続させる力になるわけです。
 
永久 国際環境の変化によって、日本の外交・安保政策は変わるべきだと思うのですが、アメリカはオバマ政権の中で何やら方向性が見えなくなってきた部分があり、その一方で中国が相当力を強めてきて日本との摩擦を大きくしている。軽武装経済重点主義を維持すべきとしても、現実的に維持していけるのでしょうか。集団的自衛権はどうとらえますか。
 
牛尾 軽武装経済重点主義を実現するために、アメリカが日本を一方的に守るという日米安保条約が画期的な役割を果たしてきたわけです。条約締結当時の日本の経済力を見ると、GDPは世界の0.3%、一方でアメリカは40%を占めていた。だから、それでアメリカも了解した。それが、ある時期に、日本が15%になり、アメリカが25%になる。いまは日本が8%ぐらいで、アメリカが25%ぐらいですかね。そうなると、一方的に守ってもらうというのは、アメリカの国民感情を考えても、できないでしょう。やはり、アメリカが攻められた時には、ある程度でも日本もアメリカを守らないといけない。そうしないと日本は守ってもらえないかもしれない。つまり、日本が軽武装主義を維持できなくなる恐れがある。
 
永久 そうしたことを考えずに、ただ防衛力を削減しろという昔の非武装中立論みたいな議論がありますし、逆に憲法9条を改正して重武装自主独立みたいな議論もありますね。
 
牛尾 これだけ大きな国を武力なしに平和に保つのは無理でしょう。といって、自主独立でいくんだというのも間違い。アメリカは日本が核兵器を持つことを一番恐れている。やはり、日米同盟を主軸にした軽武装を、まぁこれからあと50年は続けるべきです。

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7.自分が何とかするという強い意志をもて
 
永久 最後に、今後の日本の社会をよくしていくための基本的課題は何でしょうか。
 
牛尾 やはりよい政治家を育てること。保守本流の歴代総理、吉田、岸、大平、福田、そして中曽根さんあたりは、人物としても相当すぐれているわけですよ。最近はそういう人が見えない。安倍さんは久しぶりに出てきた海外に通用する人でしょう。でも、彼一人じゃ困る。もう一方では、いい経営者をつくらないと日本の経済は伸びない。だから、課題は、いい政治家と、いい経営者をいかにつくるか。それができなければ、日本の将来はないでしょう。いまは昔に比べて出発点が高いから、いい国をつくるのは楽なんですよ。終戦後は、焼け野原、しかも、優秀な人は公職追放という中から、高度成長を遂げたんです。
 
永久 危機感が希薄だから、むしろ難しいかなとも思いますが。
 
牛尾 危機感がなくて、だめになる人はだめになったらいい。戦後はね、だめになった人、餓死した人もいっぱいいたけれども、とにかく自分たちの会社をよくしてくことが、社会全体を繁栄させていく道なんだと考えたんですね。
それは今も同じですよ。このままタックスペイヤーが減って、タックスイーターが増えたら、国が破産するのは当たり前じゃないですか。だから、そうしてはならないという人が出てくるわけです。
 
永久 たしかにそうですね。そういう人は若者たちのなかにもいる、というか若者たちのなかにこそいるかもしれません。楽観的になっていいんでしょうか。
 
牛尾 強い意思が必要です。悲観主義者は気分だが、楽観主義者は大いなる意思を背景にしないと成り立たない。
 
永久 フランスの哲学者・アランの『幸福論』ですか。自分たちが何とかするという強い意思が、いまの日本人には必要ということですね。ありがとうございました。

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