ピンチをチャンスに変えるためには

北川正恭(元三重県知事)×上村崇(京都府議会議員)×熊谷哲(PHP総研主席研究員)

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議会運営委員会にホワイトボードとポストイットを
 
上村 本当に小さい町の議会だと、議会事務局が事務局長とアルバイト1名とか、2、3人でやっているところがあるんですよ。しかも、正職員が1名とか2名とかで。
 
熊谷 そんな村があるんですか。
 
北川 日本中にありますよ。監査委員事務局と兼務というところもざらにある。
 
上村 一般市でも、5、6人という議会事務局があります。だから委員会係、調査係、議事係という区別がないんですね、それぞれ兼務しているから。これでは、「執行部側から出してくる議案を唯々諾々と承認するだけから、この人数でいいですよね」と言われて、認めてしまっているのと一緒なんですよ。これではいけない。
 
熊谷 厳しい財政状況があるにしても、適正規模というのをある程度勘案しながら議会側から声を発していかないといけないですね。
 
上村 そのときに、議会で議論が白熱することを避けて通るような体質も変えさせないといけない。執行部側から提案された通りに仲介したり自主規制したりする事務局ではなく、なれ合いではないド真剣の議論をする議会を支える事務局、というのがあるべき姿だと思いますね。
 
熊谷 議会に籍をおいていると、それなりにエンターテインメントなところが見えるじゃないですか。議長選の争いのようなことだけではなく、政策条例ですったもんだして、もめにもめてようやく出来上がったものとか。そういう側面が住民に伝わるだけでも、議会を見る目は変わると思いますね。
 
北川 余りにも執行権者(首長側)と議決権者(議会側)がなれ合って、談合がほとんど。この首長側は独任性なんですね。議会側は合議制ですから、こちらが民意の反映。ここで丁々発止やらないと、民主主義は本当は成り立たないんですよ。そこをみんなが認識し合って、なれ合いから機関競争までいかないといけません。そのように議会を変えるべきだし、変えて存在感を示さないと日本のデモクラシーが危ないという危機感を持たなくてはいけない、本当にそう思いますね。
 
熊谷 その意味で、対面式の本会議場だとか、再質問という方式とか、委員会を政策討論の場にとか、そういう装置自体は整備されてきたと思います。そこをさらに、丁々発止をまさにやるような、次の一手というのは。
 
北川 器はつくったけれども中身が伴っていない状況もありますから、実質を高めていくというのがまずは大事。それとは別に、議会運営委員会にホワイトボードとポストイットを置こうと。会議をワークショップにして新たな価値を生んでいこうと、全国の地方議会に説いて歩いているんです。今までの古い集権の、情報非公開の、執行部優先の議会を脱皮するためには、議運の形を変える、中身も変えるというのは重要だと。
 
上村 マニフェスト大賞に出てくる優秀な議会は、ほぼイコール議会事務局が優秀ですよね。追認議会から政策立案議会とか、視察の仕組みを変えるとか。政策法務の考え方を取り入れたのも、北川先生でしたよね。
 
北川 議会事務局に立法の条例制定をできるという政策法務をできる職員はゼロでした。なぜなら、事務局の仕事の大半が議員のお守りだったからですね。そこを変えるために、優秀な人材を投入したんです。内閣法制局からも人材を迎えたりもしましたね。
 
上村 京都府議会で交通安全に関する議員提案条例をつくるのに2年近くかかりました、24回の会議に公聴会も開いて。その中に「歩きスマホ」という用語を入れるか入れないかで、政策法務の担当者と議員側での激しい議論があったんですね。結果、議員側が押し切りましたが。
 
北川 本気でやったら、議員というのは鋭いんですよ。選挙をしているし、現場を知っていますからね。文言のつじつまではなく、問題の核心を突く。そういう徹底的な議論を重ねて政策をつくっていくというのが、まさに議会の進化論ですよ。執行部からいろいろ聞くだけで質問や政策づくりをするのでは、執行部の都合のいい情報の上で踊っているだけ。このパラダイムを変えることが何より重要ですね。

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