ソーシャル・キャピタルが復興を確かなものに

藤沢烈(RCF復興支援チーム代表理事)×熊谷哲(PHP総研主席研究員)

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人間らしい社会空間をつくり出したい
 
藤沢 よく定住人口や交流人口と言いますけれど、その間を示す「関係人口」という言葉があります。完全移住でもなく、観光で年に1回行くでもなく、月に1回程度定期的に訪れて現地の人ともつながるという意味での「関係人口」。こうした人を増やすことが大事だと思っています。
 
熊谷 とても興味深い捉え方ですね。
 
藤沢 山古志村(やまこしむら)の木篭(こごも)集落は中越地震のときに土砂ダムで家が水没した地域で、67人の人口が22人にまで減って、なおかつ75%以上が65歳以上の超限界集落になりました。ですが、住民の7倍以上の方が木籠ファンとして登録していて、毎月何十人という方が集落に来ているんですよ。もう第2のふるさとのようになっていて、これがまさに関係人口の典型的なのです。
 
熊谷 人が減っても怖くないというか、新しい関係性の中で地域を持続可能にしていけるやり方があるんだよと示している。
 
藤沢 人口は緩やかに減らざるを得ないけれど、どれだけ外に開いていてつながりを持っているかが大事なことで、これは被災地で参考になります。交流人口の拡大にもつながりますし、地域のコミュニティ形成にもなりますし、コミュニティをベースとした新しいビジネスが生まれる下地にもなるでしょう。
 
熊谷 同じようなところが三陸にもあって、30世帯ほどの集落で10軒ほどが全壊して、若い世代もそんなに残っていないし港や施設もダメになったところがあるんです。再建しても将来はますます厳しくなるだろうから、この際集団移転の可能性も考えるべきだと言っていたんですね。
 
藤沢 客観的には、それが良さそうと思われてしまう。
 
熊谷 ところが、集落再生の思いがとても強かったんですね。若い漁業者さんたちが先頭に立ってホタテを中心に漁業を再建して、三陸鉄道の駅をブランド化して。今では、それを応援してくれる人たちがたくさん集うようになっています。藤沢さんの言われるような、集落を維持するための違う可能性が生まれるとしたら、こういうところなのかなと思いますね。
 
藤沢 効率化や予算の制約も考えないといけないけれど、一方で地域の関係づくりからできることは必ずあって、お金かかる話とは別の次元で地域をつくっていける。その可能性に、私は期待したいと思っています。
 
熊谷 そういう手間暇のかかるところを役所は避けたがるところもあったりするじゃないですか。そういうところに藤沢さんのような思いや経験とか、ネットワークを持っている方が関わることで全然違うものが生まれると思うんですよね。
 
藤沢 復興を進める中で、企業と行政が連携しながら地域をつくるモデルが東北でどんどんできています。受け入れがオープンな自治体がこれほど生まれた地域も珍しいと思いますし、関わりたいと思っている企業や民間団体もまだまだある。そういう意味では、日本全体の中でも大きな可能性があると思います。
 
熊谷 そういう地域づくりが進んでいけば、まさに日本の未来を先取りして発信していける、復興でめざしたものがかたちになっていきますね。
 
藤沢 韓国ではUターン、Iターンという概念があまりないらしいんですね。地方の人はどんどんソウルに行くし、優秀な人は海外に出て行く中で、地方の格差が広がっている。そこで、東北を始め、優秀な若者が地方に集まっている日本の動きが注目されているそうです。
 
熊谷 そういう発想はあまりなかったですね。日本も東京一極集中という言われ方をしますが、地方に違う価値を見出そうという動きは確かに広がっています。
 
藤沢 3月にはイラク政府から視察団が来ました。彼らの状況は実は福島と似ているところがあって、ISILの影響によって国内避難民が長期に避難し続けざるをえない現実を抱えている。だから、震災から4年経った日本の今を見て、振り返って緊急時に何をすべきだというのを知りたいそうなんです。
 
熊谷 イラクの方は、今まさに緊急期なんですね。
 
藤沢 復興という切り口では全然違うと思われるイラクやアラブ諸国の状況が、実は東北とつながっているかもしれない。東北の小さい地域や集落で仕事をしていることが、アジアや世界に貢献することにもつながっている可能性があるという感覚があります。
 
熊谷 そこが、地元の子どもたちの目にもしっかり映ってくるといいですね。
 
藤沢 そうですね。ふたば未来学園高校にも海外の人たちにぜひ来てほしいし、外からこう見られているということを生徒が知るだけでも価値がある。自分たちの歴史的な意義も、より感じると思うんですよ。そこで、人間らしい社会空間をどうつくっていくのかという普遍的なテーマにチャレンジしていけたら素晴らしいですね。
 

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