安定財源の確保と税金の投入先の見直しを

林宏昭(関西大学経済学部教授)×上村敏之(関西学院大学経済学部教授)

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3.制度でお金をかけることだけが「充実」ではない
 
上村 いわゆる「社会保障四経費」のうち、年金は国が、医療、介護、少子化対策は基本的に地方が行っています。ここには、どのような課題がありますか。
 
 高齢者、障がい者、子育てなどには、地方の創意工夫が求められます。例えば、高齢者の方は、一日一回血圧が測定できて、みんなで集まって会話ができる場所があれば健康を保てるかもしれませんよね。こういうことは、国ではできません。施設の設置基準がどうだとか、うるさいことばかり言います。だから、市町村の権限を強くして、地域でこんなことやるからお金かけましょうよと、市民協働でやればいいのです。それが本来の姿でしょう。
 私の師匠が、昔、「介護が必要な人を、近所の人がちょっと来てお風呂に入れてあげられるようにしたら、こんなにお金かからないのに」と言っていました。制度でお金をかけることだけが「充実」ではないんですよ。
 
上村 そういった地域のコミュニティの育成に対して、政策的にどうコミットするかは簡単ではありませんね。
 
 昔と違って、現役で働いている人には時間的余裕はありませんし、女性も働いている人が多い。ですから、60代の人にいかに支える側に回ってもらえるかがポイントだと思います。
 
上村 地域貢献ができる高齢者をいかに増やすかですね。ですが、どうしてもコミュニティの中に入れない人たちが出てきますよね。独居になってしまう可能性もありますし、そうした人たちにはやはり財政的な支援をしていかなければなりません。
 
 そうなのですが、独居の方にお金を毎月届けるのが社会保障かというと、違う気がするんです。ちょっと行ってちょっと誰かの役に立つことに、やりがいを感じる人は大勢います。そういう人たちの支え合いをいかに続けられるようにするかです。
 
上村 たしかに、自治体の審議会などには元気な高齢者の方がたくさん参加されています。また、行政に対してお金やサービスを要求したり、足りないのは役所が無駄遣いしているからだと騒ぐ人たちも減ってきている気がします。市民の当事者意識が高まってきたのでしょうね。少子化対策はどうですか。
 
 気持ちの部分が大きいので、難しい問題です。お金がもらえるから産むというわけではない。自分の楽しみに使う時間もお金もなくなるので産まないという人には、説得のしようがありません。やはり安心して子どもを預けられる環境をつくるということになりますよね。そのときの担い手として、高齢者の役割は大きい。
 
上村 アメリカでは、ベビーシッターなど、マーケットから福祉を調達していますよね。日本では、自分の家に他の人を入れるのはなかなか難しいという気がします。
 
 日本の場合、お金をとってやるとなったら、資格がないとできません。保育ママもそうですよね。もちろん、有資格者でも問題を起こすことがあるので、リスクはあります。ですが、そのあたりの環境整備が必要ですね。

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