「グローバル」ではなく「惑星的(プラネタリー)」に地球の課題を考える

竹村真一(京都造形芸術大学教授)×永久寿夫(PHP総研研究主幹)

 東京駅すぐ近くの日本ビル6階に3×3 Laboがある。2014年10月末から2016年3月末までの期間限定で、CSVビジネス創発拠点として設立されたオープンスペースである。そこにあるのが竹村真一氏が主宰する「触れる地球ミュージアム」だ。地球上のさまざまな情報をリアルタイムで描き出す大きな光る5つの地球儀は、訪れた人に未体験の感動をあたえる。
 その地球儀を使って目指すのは「地球価値創造(Creating Planetary Value=CPV)」。新たな創造によって地球の価値を高め、世界の人々の生活をより豊かで平和なものにするという挑戦である。

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1.「触れる地球」は感性のインフラ
 
永久 「地球価値創造フォーラム」に2度ほどお邪魔しましたが、その時に紹介されていた「触れる地球」が衝撃的でした。様々な情報が、大きな光る地球儀の上で表現され、しかもそれが動いてく。久しぶりにワクワクしました。あれはいったい何なのか、説明していただけませんか。
 
竹村 直径1メーターほどのデジタル地球儀で、地震、海流、気象などインターネットを通じて、どんな情報でもほぼリアルタイムで表現できます。日本の台風はもちろんアメリカのハリケーンでも、刻々と動いているのが分かるのです。タイの洪水でもわかるように、地球上でどこかで起きた災害は人ごとではない時代です。
 
永久 日本のテレビの天気予報は、日本付近しか映し出さなくて、台風が画面から外れたら、もうあたかもなくなったかのような感じですが、そうではないということですね。
 
竹村 11月から1月は、台風はもうないと多くの日本人が思っているかもしれませんが、フィリピン付近では当たり前に発生していて、太平洋高気圧との関係で、日本のほうへ来ないだけなんです。地球の「体温」や「体調」は刻々と変っている。科学技術がちゃんとモニタリングしているのだから、それを地球市民として普通に感じられるようなツールをつくりたいと思っているわけです。
 
永久 先ほど僕も触ってみたのですが、シーレーンが出てきました。中東から日本に向けて船のラインがずっとつながっていますね。あれを見たら、いま乗ってきた車とかバスとか、そうしたもののエネルギーは、こうして遠く運ばれてきたんだと実感できますね。我われの生活は、実際、様々な地域とのつながりで成り立っていることが一目でわかります。
 
竹村 ここ30年ぐらいで、グローバル貿易が一段と発展しています。シーレーンと都市の地図を重ねると、船が経由する都市の人口が花が開いていくように増えていく様子がわかります。20世紀初頭に17億だった地球人口が、いま72~3億になっています。しかもその半分以上が都市人口で、さらにその大半が沿岸部です。その理由は、国際貿易、特に船による物流です。日本食も米以外は地球のあちこちから運ばれてきている。我われは地球を食べ、地球を飲んでいるといってもいいわけです。一方、人口が集積している沿岸都市には、洪水、台風、液状化、津波など、いろんなリスクもあります。これは日本も含めて、世界中のかなりの部分、人類社会全体が脆弱性を高めているということです。そのアンバランスなバッドデザインの地球社会を映し出すものでもあるんです。
 
永久 普段の生活では、先端の一部分しか見えてないけれども、その源流を突き詰めていくと、実は世界的な広がりがあって、あの地球儀を見ることによって、それが理解できて、何かやろうとか、変えようということになるのだと理解するのですが、具体的に何を期待できるのでしょうか。例えば、各学校にあの地球儀があったら、子どもたちの知識は増えるし、考え方も変わってくると思うんですけれども、具体的に、あの「触れる地球」を通じて何が生まれてくるのでしょう。
 
竹村 みんなが心の望遠鏡と顕微鏡を同時に持つようなマインドになっていくということですかね。虫瞰図と鳥瞰図と言ってもいいんですけど。自分の想像力と創造力、イマジネーションとクリエイティビティを伸縮自在にしていく。心の伸縮性を高める装置にしていきたいんです。
 
永久 知的生産のインフラみたいな、そんな感じですか。
 
竹村 感性のインフラって僕は呼んでいます。ハードウエアは日本が強い、ソフトウエアではアメリカに負けたというけど、それらは基本的にコンピューターを動かす土台にすぎません。これから大事なのは、その上で、人間の創造力とか感性、知性を高めていく「センスウエア」や、他の人と協働していくための「コミュニティーウエア」「ソーシャルウエア」を育てていくことです。例えば東日本大震災の後、電力消費がピークになる時間、特定の地域の電力を「暴力的」に一斉に止めました。ですが。電気の需給を個々人のミクロな状況と国全体のマクロな状況をITという神経系でつなぐことができる時代では、もっと合理的に、エレガントに調整ができるはずなんです。
 

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