日本は国際的なルールづくりで先導的な役割を果たせるのか

小田正規(青山学院大学WTO研究センター客員研究員)×熊谷哲(PHP総研主席研究員)

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2. 規制政策のあり方
 
熊谷 規制のつくり方の世界標準というと、新たな規制を設ける際に規制影響評価(Regulatory Impact Assessment:RIA)を実施して事前に検証し、実施後は一定期間を経過した時点でレビューを行う、ということが基本的な体系となっていますよね。
 
小田 そうですね。制度上は、日本もそうなってはいますが。
 
熊谷 そこに、今回のTPP交渉でさらに追加的に求められていることや、その仕組みが根本から変わってしまうようなポイントなど、何か具体的なものがあるのでしょうか。
 
小田 努力目標のレベルにとどまるだろうと言われていますが、アメリカが主張しているのは大きく3点。第一に、OIRA(The Office of Information and Regulatory Affairs)のような、独立した規制の審査機関をつくること。第二に、規制の影響評価を実効あるかたちで実施すること。第三に、審議会や研究会にステークホルダーの代表を入れ、パブリックコメントを早く長く実施すること。こうしたところが、形としては世界標準的ではあるものの、日本では実効性がまだまだ不十分だと思われています。
 
熊谷 規制改革会議は諮問機関であって、司令塔でも審査機関でもない。規制の影響評価は各府省の自主点検が基本で、とりまとめる行政評価局は書きぶりをチェックするけれども内容の適否までは踏み込まない。事前評価の結果が公表されるのは閣議決定後で、なおかつ国会通過後になることがほとんど。OECDから形式的には評価されてはいるけれども、こうしたあたりが問題だということですね。
 
小田 新たに規制を設ける際にはきちんと事前分析をするという形にはなっているものの、定量的な分析がなされているケースは極めて限定的です。パブリックコメントを実施しているとはいっても、形式的なもので終わっているものも少なくありません。
 
熊谷 このあたりは、TPPで俎上に載せられたからということではなくて、そもそも日本の規制政策のあり方として根本から手を入れなくてはいけないところです。私が事務局長のときに最終案までたどり着きはしたものの実現には至らなかった、一番の心残りのところでもあります。
 
小田 私は、この点でもヨーロッパに学ぶべき部分があると思うんです。彼らは、あれだけ言葉も宗教も違う中で、また経済発展水準も違う国々が集まっている中で、一つの市場をつくるためにどういう妥協案があるのか模索してきた。その結果、より合理的な規制のあり方を追求することで、たとえば技術革新を誘発しつつ高い安全性を確保するといった方向へとすでに転換しています。日本も抜本的に見直すべきときだと思いますね。

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