日本の国際的存在感を高めるには

加治慶光×藤井宏一郎×金子将史

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■ 東京五輪の先を見据えて
 
金子 加治さんは東京五輪の招致に尽力されたわけですが、この東京五輪を対外広報機会としてどう生かしていったらいいでしょうか。
 
加治 自分は2回招致に関わっています。1回目は招致委員会の企画広報のエグゼクティブ・ディレクターだったので、プレゼンテーションをつくったりとか広報とかをずっとやっていて、それで負けた。
 
 でも2016年のオリンピック招致を経て考えたんです。日本が持っているいろいろな価値を、もっと我々が強くなって世界に出すことができれば、それは世界の新しい秩序に貢献できるんじゃないかと。例えば、八百万の神ではないですが、多様な価値観を自然に受け入れられるとか、「和をもって尊しとなす」とか。そういう日本の価値観は、世界の新しい秩序をつくる上で役に立つんじゃないかと。
 
 よくみんなが言っているのは、日本の復興の姿を世界に問いたいとか、日本に世界の人たちを呼び込みたいということですが、むしろ僕は、世界の新しい秩序の在り方というのを宣言し、世界に理解を求める場であるべきじゃないかなと思っています。その時に、アジアに位置しているということがすごく意味合いを持ってくるんじゃないか。アジアにおいて、日本がどれぐらい心を開いたオリンピックを展開できるか、我が国だけのことを考えていないというところを提示できるか、それが、世界の新しい秩序の在り方を、アジア的な秩序の在り方を示すことにつながるんじゃないかなと思っています。持続可能な世界づくりに貢献する新しい秩序が求められているのだと思います。
 
  例えば、競技場をつくるにも、日本のコンストラクターだけじゃなくて、アジアのコンストラクターを取り込むとか、40億人が開会式とかマラソンとかをアジアで見るわけですから、そこは非常にアジア的なものを入れ込んだ開会式にするとか、アジアがともに育ってきて、その中にたまたまみんなを整える役割として日本がいると見せられたらいいんじゃないかなと、これは僕の個人的な意見なんですが。
 
藤井 今の話、僕も完全に同感です。オリンピック招致で有名になったニック・バレーさんが、日本サイドとのコミュニケーションで一番難しかったのは、復興の話をすごくしたがる、日本がこれだけ頑張ったという話を日本サイドはしたがるけれども、グローバルに見たら数万人が犠牲になる自然災害がたくさんあり、日本の震災は特別な悲劇じゃない。それでは招致できないと思った、と言ってましたよね。
 
加治 まさにさっき藤井さんが言っていた、アジェンダのガラパゴス化ですね。
 
金子 世界の人々が関心をもつような文脈の中で、日本にとって大事なものを表現しなければならないということですね。ただ、アジアを強調すると言っても、中国や韓国とうまくやりながらそれをやるのは難しくないですか。
 
加治 だから、とりあえずASEANじゃないですか。ASEANとうまくやって、徐々に周辺国とも折り合いをつける。なかなかそういう風にいかないかもしれないですが。
 
藤井 それから、日本はこのままいくと実態面で2020年にピークアウトしてしまうおそれがあるので、その先を見据えたイノベーション戦略、財政戦略、成長戦略が必要です。2020年の先を見据えて日本をどうしていくのか、国民的議論をすることが実は一番重要なんじゃないかと思います。
 
加治 今文部科学省で、グローバル・ビジョン・ワークショップをやっていて、それは2030年を目指しているんです。2020年大会は手段であって、それを目的化してはいけない。
 
金子 あくまで通過点ということですね。
 
藤井 僕は、パブリック・ディプロマシーという点でも、日本を多様な人たちが暮らす、多様な価値観が存在する国にすることが2020年にかけて大事だと思っています。移民や女性の登用も含めて、多様な価値観、多様な背景の人たちが住める社会にしていかないといけないと思うんです。
 
 ロンドン五輪にしても、結局は民主主義国家というのはメッセージをコントロールすることなんかできないし、ダイバーシティ(多様性)があって、いろんな人たちがいるというところを打ち出せたのがブランディングのサクセスだったということなんです。だから、日本もダイバーシティをメッセージとして出せるために、多様性のある国をこれから10年、20年かけてつくっていかなくちゃいけないと思います。
 
金子 ロンドン五輪では、参加国の人がロンドンに住んでいるというのをアピールしていましたしね。でも、同じことって日本でできないでしょ?だから、ダイバーシティを強調する仕方も、イギリスと同じぐらいダイバーシティがあるかといったら、多分言えないので、そこはちょっとまた考えなきゃいけないところもあるとは思います。ダイバーシティが対外的な発信力強化につながるというのはそうかもしませんが。
 
加治 あと、発信という言葉は若干押しつけがましく感じます。受けとり手の姿が感じられない。
 
金子 どういう言葉がいいんでしょうか。コミュニケーションとか。
 
加治 そこはよくわからないけれども、我々がどれだけいい活動をするのかということが何より重要で、それって受けとり手の立場に立たないとわからないじゃないですか。発信ってちょっと押しつけている感じがするんです。
 
金子 対外発信への関心は高まっているんだけれども、自分たちが言いたいことを言えばいいみたいな感じですよね。私は「言うたった外交」って言ってるんだけれども(笑)。
 
 アジェンダのガラパゴス化という話とも関わりますが、言いたいことを言うこと自体に意味はなく、伝わらないとしょうがないわけです。日本が主張したいことがある場合、常にグローバルなコンテクストの中でどう位置づけるかという視点で見ないと、結局誰も聞いてくれない。相手のことを深く理解することや、相手のことを知ろうとする姿勢も大事です。
 
 そういう点に十分気をつけて、埋もれている潜在力を掘り起こし、お二人のような人材が増えていけば、日本がパブリック・ディプロマシー大国になることは十分可能ではないでしょうか。

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