よりよき「国づくり」という観点から憲法の見直しを―与野党憲法改正案を比較する―

政策シンクタンクPHP総研 研究主幹 永久寿夫

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観念論ではなく実質的な議論を深めなければ
 
 ただ、忘れてならないのは世論の変化である。世論調査の結果は、調査主体や調査方法によって変動するが、全般的に、憲法改正を望む安倍政権の継続日数が増えるのと並行して憲法改正反対の数も増えるというパラドクスがみられる。例えば、産経新聞社とFNNが3月末に発表した調査では、昨年61.3%に及んだ憲法改正派が38%に減り、26.4%だった反対派が47.0%に急増している。朝日新聞が4月7日に発表した最新の調査では、昨年54%あった、憲法を「変える必要がある」という回答が44%に減り、37%だった「変える必要はない」が50%に上昇している。また、第9条については52%あった「変えない方がよい」が64%になっている。集団的自衛権に関する調査でも同様の傾向が見られ、昨年の参議院選の前後で容認と反対が逆転し、反対が多数になっている。
 
 いかに「共有性」や「緊急性」があろうと、国民の支持がなければ憲法改正は不可能である。この世論の変化をどうとらえるかは、詳しい分析が必要だが、一部から「右傾化」と批判される安倍政権の動向に対してブレーキをかけたいという国民心理が生じているとも判断できる。憲法改正議論は、政治の場でも、国民の間でも、長い間行われているわりには、観念論ばかりで、実質的な議論を深めてこなかったのではないか。実際、「憲法改正原案、憲法改正の発議」を審議できる憲法審査会ができたのは7年前、しかも長い間、開店休業状態が続いていたのである。安倍政権はあせらず、与野党間の議論を深めるとともに、細心の注意を払って改正案を選択し、分かりやすく丁寧に国民に説明していく必要がある。勢いで憲法改正をはかっても、逆に抵抗は大きくなるばかりである。国民もまた、雰囲気に流されるのではなく、実利という側面からも、憲法改正のあり方を考える必要があろう。

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