基本法の通常国会での成立に期待する

政策シンクタンクPHP総研 主席研究員 荒田英知

 「変える力」では、明治以来の中央集権に代わる新たな国のかたちである道州制について、「道州制が日本を元気にする」(2013年9月3日)、「道州制で地域を元気にする」(2013年9月18日)、「道州制はあなたの暮らしをどう変える」(2013年10月1日)の3回にわたって特集してきた。
 
 特集に際しては、道州制を推進する諸団体の情報をキュレーションし、推進側が連携して取り組みの本気度を高めていくことを心掛けてきた。それが結実したかたちで、1月15日に「道州制推進フォーラム 道州制基本法案と基礎自治体の未来」が開催されるに至ったのである。
 
 道州制推進知事・指定都市市長連合と政策シンクタンクPHP総研が主催、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会が組織する道州制を推進する国民会議が共催するという従来にない連携が実現した。
 
 折しも、自民党が検討してきた道州制基本法案が国会提出に至るかが、関係者の大きな関心事となっている。そこで、道州制を推進する自民党、公明党、日本維新の会の政策責任者をパネリストに迎えることになった。
 そこで本号では、250人もの聴衆が詰めかけたフォーラムの概要を紹介する。
 
◆「道州制推進フォーラム~道州制基本法案と基礎自治体の未来~」
 
日時:2014年1月15日(水)14:30~16:30
1.開会挨拶  村井嘉浩(宮城県知事、道州制推進知事・指定都市市長連合共同代表)
        畔柳信雄(経団連副会長、道州制推進委員長)
2.基調報告  荒田英知(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)
3.パネルディスカッション
〔パネリスト〕 礒崎陽輔(自由民主党 道州制推進本部事務局長代理)
        遠山清彦(公明党道州制推進本部事務局長)
        松浪健太(日本維新の会道州制基本法推進プロジェクト・チーム座長)
        畔柳信雄(経団連副会長、道州制推進委員長)
        鈴木康友(浜松市長、道州制推進知事・指定都市市長連合副代表)
〔コーディネータ〕荒田英知(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)
4.閉会挨拶 永久寿夫(株式会社PHP研究所代表取締役専務 政策シンクタンクPHP総研研究主幹)
 

_E1A0786

統治制度改革の究極の姿が道州制
 
 フォーラムの冒頭、道州制推進連合の共同代表を務める村井嘉浩宮城県知事は、「道州制はこれまで入り口論で足踏みをしてきたが、昨年来、一気に現実味を帯びてきた。今度の通常国会がヤマ場になると考えている」と挨拶。共催者を代表して経団連副会長で道州制推進委員長を務める畔柳信雄氏からは「中長期的にわが国の成長基盤を確固たるものにするためには、地域独自の魅力を活かし、経済成長と財政再建の両立を可能とする統治制度の抜本的改革が必要で、その究極の姿が道州制」との発言があった。
 
 続いて、PHP総研の荒田英知主席研究員が基調報告。松下幸之助の廃県置州論について「中央集権を非常に独立性の高い地方分権に変える」という観点から「大を小へ」がキーワードであることを紹介。また、道州制においては基礎自治体の役割が飛躍的に高まること、その際に、大都市や中核都市に加えて、水平連携や垂直補完による多様な基礎自治体像を確立することが重要であると指摘した。
 

_E1A1051

道州制基本法案をめぐる経過について
 
 パネルディスカッションには、自民党から道州制推進本部事務局長代理の礒崎陽輔参議院議員、公明党からは道州制推進本部事務局長の遠山清彦衆議院議員、日本維新の会からは道州制基本法推進プロジェクト・チーム座長を務めた松浪健太衆議院議員が出席。主催者側からは、経団連副会長で道州制推進委員長の畔柳信雄氏と道州制推進知事・指定都市市長連合副代表の鈴木康友浜松市長が加わった。
 
 じつは国会議員の3氏は、推進連合が2013年3月31日に開催した道州制推進フォーラムにも出席しており、その際には、早ければ4月中にも道州制基本法案の国会提出が実現するのではとの見通しを語り合っていた。結果的には今日まで持ち越されたわけであるが、この間の経過について、まず3氏から発言があった。
 
 自民党の礒崎議員は、「私の発言が大きく報道されたことで、党内から反対の声が出てきた。その後、地方6団体との再度話し合いを行っているが、なかなか話がつかない状況が続き、参院選もあったために昨年の通常国会提出を断念した」と説明。地方6団体との協議の状況について「各団体とも真摯に対応いただいている」としたうえで、全国知事会については「知事会の意見を取り入れて地方支分部局の廃止を書き込んだ。また、税財源や財政調整についてもっと詳しく記述すべきとの指摘があるが、これは国民会議でどういう道州制にするかを決めてからでないと難しい」との見解を示した。
 
 また、全国町村会と全国町村議会議長会については「道州制絶対反対という姿勢。反対する理由は合併を強いられるからで、自民党は合併を前提とはしていないと説明してもなかなか信じてもらえない」と説明した。
 
 公明党の遠山議員からは、「基本法案をめぐる本気度が上がったことで、本気の懸念がでてきた。なぜ道州制が必要なのか、なぜ府県制ではダメなのかを丁寧に説明する必要がある」との発言があった。
 
 日本維新の会の松浪議員は、「昨年6月に、維新の会とみんなの党で独自の道州制基本法案を国会提出した。自民案との差は道州制導入までの年限くらいで大きな差はない。議論の時期は終わった。法案の成立を第一に考えたい」との考えを表明した。
 続いて、鈴木浜松市長は「1億2千万人の国家を中央集権でコントロールするのは無理。道州制の実現には下からの積み上げが不可欠で、基礎自治体が自立の覚悟を持てるかにかかっている」と指摘。畔柳副会長は「地方経済がGDPの約7割を占めることに目を向けるべき。地方の経済成長のためには、明治以来の国・府県・市町村の三層構造を改め、二重行政の解消により成長戦略の原資を捻出し、独自の魅力を活かした地域経営を行えるようにする必要がある」と指摘した。
 

_E1A0920

水平補完、垂直補完による新たな基礎自治体像
 
 次に、道州制における基礎自治体のあり方について議論を進めた。鈴木浜松市長は「基礎自治体が県や国に頼っていたのでは道州制はできない。浜松市は合併によって市域の半分が過疎地の国土縮図型の政令市になった。現在、基礎自治体が自立するモデルとして、しずおか型特別自治市を提案している。県と合意もでき、全国初の事例として取り組みを進めていく」と述べた。
 
 畔柳副会長からは、「基礎自治体が行政体の原点として大事だが、1700の市町村をみると大小のバラツキが大きい。今後は人口ゼロ地帯も生じかねないという実態から考えれば、都市を中核としながら、周辺基礎自治体間の連携をいかに図るかが一つの方向性になる」とした。
 
 基礎自治体の将来像について、自民党の礒崎議員は、「道州制において、基礎自治体は市町村に加えて県の仕事も吸収するかたちになる。町村会は合併を危惧しているが、広域連合や一部事務組合で水平補完したり、道州が垂直補完することを想定している」とした上で、「もう一つの論点として国の関与がある。警察は県の事務、消防は市町村の事務であるが、国には警察庁があり消防庁がある。あらゆる行政分野に国の関与があり、これを切れるかどうかは一般論ではなく分野毎に決めなければならない。ここに道州制を考える時の難しさがある」と指摘した。
 
 基礎自治体に対する関与や補完のあり方について、公明党の遠山議員は「基礎自治体に自立の覚悟が問われるという時に、財源の有無が覚悟を左右する。離島のように、国が垂直的に補完しないとなりたたない基礎自治体があるのではないか。丁寧に議論を進めていくことが大事だ」と述べた。
 
 維新の会の松浪議員は、「今の日本の行政システムは限界に来ており発想の転換が必要。関与の糸をいったんはないものとして考えることも必要ではないか。基礎自治体のあり方については地域によって事情が異なるから、いかに当事者に納得してもらえるような方策を講じるかが大事。水平補完や垂直補完のプロトタイプを示して、それを地域がカスタマイズするという流れが妥当ではないか」と応じた。
 
 道州制における基礎自治体のあり方については、かつては一律再編論のような少々乱暴な議論も見受けられたが、水平補完や垂直補完による多様な基礎自治体像が基本法案に担保されることによって、議論の熟度は増していくものと期待される。
 

_E1A1464

今国会での基本法案提出、成立の見通しは
 
 さて、1月24日に開会する通常国会で、果たして道州制基本法案は提出、成立に至るのであろうか。畔柳副会長からは、「何といっても早く基本法案を成立させて欲しいということに尽きるが、出先機関改革などを含め、できるところから取り組むことも大事。地域経済活性化に資する議論を進めてもらいたい」。また、鈴木浜松市長からは、「基本法案が成立すれば、道州制はがぜん現実味を帯びてくる。乱暴な議論はいけないけれど、細かいところにこだわっては先に進まない。われわれ自治体側も連携をさらに広げて活動を展開したい」と期待が寄せられた。
 
 維新の会の松浪議員からは「維新・みんなの基本法案を作る時に考慮したことは、できる限り早期に通すことと、地方支分部局の廃止や道州制の導入年限で少しハードルを高くしておくことだった。自民案が知事会の意見を取り入れて、地方支分部局の廃止に言及したことでより良い案になった。道州制国民会議への諮問事項もすり合わせているので、自公案が出てきたら瞬時に合意できる。早く出していただくことをお待ちするのみである」との発言があった。
 
 これを受けて、公明党の遠山議員は、「松浪議員が瞬時にと仰ったが、そうなるかどうかは自民党と地方6団体との協議次第である。それを待って、目に見える結果を出したい。いままでは道州制基本法と呼んできたが、国民会議を設置するプログラム法であることを明示すべきかもしれない」と応じた。
 
 最後に、自民党の礒崎議員からは、「発言は慎重にしたい(笑)。議論はおおむね煮詰まっており、互いに主張したいことは理解し合えた。そろそろ国会の責任で考えなければならない時期が来たと考えている。私としては修正すべき点は修正し、できれば今国会中に提出し成立するよう努力したい。従来の法案は、道州制の実施をある程度前提としていたが、道州制の導入そのものは前提とせず、将来にむけてやるために国民会議を設置してしっかり検討する、というところに落ち着くのではないか」との見通しを示した。
 
 「道州異夢」という言葉があるように、道州制に対するイメージにはまだまだ幅がある。それに一定の方向性を与えるためには、道州制国民会議のような専門機関による検討が欠かせないであろう。道州制基本法案が提出、成立して国民会議が設置されることは、道州制の実現にはなお道半ばかもしれないが、極めて大きな一歩であることもまた疑いない。今国会における成立に大いに期待したい。
 
 フォーラムを締めくくって、PHP研究所代表取締役専務で政策シンクタンクPHP総研の永久寿夫研究主幹が「松下幸之助が道州制を提案して45年になる。いよいよ今年、道州制基本法案の成立が視野に入った。今後、具体的な各論になれば、いっそうの知恵と工夫が必要になる。このフォーラムが道州制の前進に向けた起爆剤になれば幸いである」と閉会挨拶をして幕を閉じた。

関連記事